Art Center Ongoing

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ジャンクフード、アート、スタイル & ミステリー

小川格 x ソニー・スズキ

2023.10.25[水]_ 2023.11.05[日]
12:00‒21:00(月火定休、水木は16:00〜18:00まで一時休憩)
入場料: 400円(セレクトティー付き)

Junk food, art, style and mystery展に向けて

実は今回この場で二人展をする事となった小川格さんとは30年来の知己であり僕の画家の基礎基盤、支柱を形成してくれた師であり恩人であります。彼との出会いがなければ画家としての僕は存在しないと言ってもいい。若かった頃に彼から受けた、絵画とは、芸術とは、といったものの大半が今も僕の画業における思考の血肉となっています。
この二人展の計画はいつかやろうとお互い約束を交わしていながらも実行するまでに四半世紀以上の時間が掛かってしまいました。2年ほど前に口火を切ったのは自分からでしたが、ジャンルやスタイルは違っていても二人のテンションが張り合っていればユニークな化学反応が起こるはずだと信じて計画を進めてきました。

インストールは10/24(火)に行いました。その場でそれぞれ持ち寄った作品(二人とも展示枚数の3倍以上は持参していた)を先ず見える様にしてから方向性を決めていきました。
初めからよくありがちな「こっちスペース半分が君でこっち半分が僕」みたいな場所の半々を分け合って各々使うやつではなく、僕のイメージは結構前に僕がドイツ滞在中にケルンの美術館で観たマティスとボナールの二人展でした。これは素晴らしい展示で二人の作品が時系列に、また共通画題を隣り合わせにして展示したもので、その効果によって作品と作家同士の相互関係をも浮き上がらせている様に感じる事が出来る、同時代に交流のあった作家展の観せ方としてとても優れたものでした。
尤もそれは同じ時代に同じモチーフを描いた作品を隣り合わせた上手い構成になっていたからで、もしかすると今回の小川さんと僕の作風は全然違うタイプの絵画なのでマティス&ボナール展の様にはならないかもしれない。でも僕はどこかで上手くいく様な気がしていた、…のは先述の様に僕の絵画の基板は彼の教えによるものだから作品のベースのベースのベースのベースにはかなり似た成分が含まれる。それが作品を並べた時に共鳴する要因になる気がして、その夢想、いや、その強度を現実のものとして照明したかったのである。

当時も今も小川さんは僕の先を進む光の様な存在であり、これは一種の崇拝と言ってもいいかもしれない。そしてずっと黙々と画業を続けて来られたのも常にその光の存在があった影響があったからと言えます。
ここで漸く近付けたかな?と思うと同時に今日までずっと続けてきて良かったと心から思えて嬉しい限り。

本展を嘗て只々若かった頃の我々二人に捧げる。そしてその頃まだ高校生だった現オンゴーイング代表にも。

2023年10月25日
ソニー・スズキ

僕らの画学生時代。既に30年前にもなるのか。90年代前半には所謂「コンテンポラリー・アート」は「現代美術」という呼び方がまだ一般的だった様な曖昧な記憶があるが、現代美術やモダニズム/ポストモダニズムどころか、キュビスムすら良く分からずにセザンヌを静かに(とはいえ目尻から血が滲むほど真剣に)睨んでいた頃、まだ話したことすらなかったソニー・スズキ氏と、学校入り口の堅牢なガラス戸を挟んで対面した。
何故かその時、僕らはほぼ全く同じ姿格好をしており、二人の間にあった厚く重いガラスドアはさながら姿見の様でもあった。
即ち、マッシュルーム髪型、タイトな黒いジャケットに白い襟付きワイシャツ、黒いスリムパンツの足元は黒のサイドゴア・ブーツ。それぞれお互いに首に赤色系の、ソニーは細いネクタイ、僕は細いスカーフを巻いていた。そのドアは彼側への引き戸だった事が理由だったのかは不明ながら、彼は静かにドアを引いて僕に通行の優先を譲ってくれたのだった。

そもそもこのテキストを書く理由の一つは、我々二人を全く知らない多くの鑑賞者に対して作品鑑賞の補助線を引く為であるのだが、正直に言えばそれは全く容易では無く、極めて困難である。
理由は二つ。
ひとつは僕らの濃厚で個人的な青春時代からの時間を他人が分かるように描くことの不可能性と無意味性。
もうひとつは絵画とそれに付随するテキストは同じ作者によるものであったとしても、言葉と絵画とが同一のものを指し示しているとは限らないと(即ちメディウムが違うと) 僕自身が認識しているからだ。
それらを踏まえたとしても彼との30年余りについては書かねばならない事どもは雄大な山脈状に眼前に屹立し、また僕の記憶は壊れた消火栓のように止めどなく溢れ吹き出してくる。記憶の路面が青臭い反射で眩しい。

展覧会タイトルに関わることとして、ひとつだけ思い出を書くことにお許し願いたい。
まず僕らは極めて真面目な画学生であった。或る日、パリの芸術橋(Pont Des Arts)の袂で待ち合わせをして数日間のパリ滞在を共に過ごす機会があった。(僕らは複数回、ヨーロッパの都市やNYで共に過ごしたが) 20代半ばの我々は勿論、常に極めて金が無く、しかし当時のパリにはまだ安宿が沢山あった。我々の定宿はセーヌ左岸の学生街・カルチェ・ラタンから坂を登った激安ホテルCujas。横になると腰が床に着くくらいバネの伸びきった柔らかいベッドが懐かしい。どんなに深夜に帰っても快く迎え入れてくれたホテルも今では綺麗に改築したようだ。他にも通称「ドストエフスキーの宿」や「中華屋の上」などの定宿があった。
パリでの日中、我々は各々別行動で濃厚に美術館をハシゴし、夕方ヘトヘトになってホテルで落ち合って彼のポータブルCDを聴きながらその日の鑑賞の収穫を報告しあった。
「今日はダヴィッドがヤバかったな。さて、夕飯どうしようか?」
我々はフラフラと学生街カルチェ・ラタンへと坂を下って行き、大抵は(というかほぼ毎日)「ギリシャ・サンドウィッチ」(我々が「ギリサン」と呼ぶ、所謂ケバブ)と安葡萄酒(我々はこれを小林秀雄のランボー訳に習い「ヤスザケ」と読む。¥300)を買い求め、ションベン臭いセーヌ川の辺りの石のベンチに座り手をベトベトにして貪り食った。先に書いたように僕らは真面目な画学生だったと思うが、同時に極めて不真面目なその年頃の青年でもあった。その日観た絵画の話をしながら、どうしようもなくくだらない話でゲラゲラ笑ってセーヌ川に落ちそうになったり、ラッパ飲みのワインを呑みすぎて、今食べたばかりの「ギリサン」を嘔吐したり立ちションしたりしていたのだと思う。
僕らの輝ける無益で無垢で透き通ったあの時間は、ミラボー橋の下を潜ってセーヌ川を流れていったのだろう。

カルチェ・ラタンの入り口、サン・ミッシェル大通りを下った広場の右角にある大衆カフェ「出発」(Le Depart)。
ここは僕の好きな作家である開高健が、ベトナム戦争取材前後に通ってエスプレッソを飲みながら朝刊を読んだり、夕方にワインを啜ったりしていたカフェで、僕も一度彼の定席に座ってみた事もふと思い出した。

ソニー、僕らは確かに「出発」したのだと思う。
しかし僕は未だに全く「到着」場所が見えないばかりか、いつも墜落の危機に怯えているよ。
せめて君との絵画的友情に恥ずかしくないように、ほんの僅かでも遠くへ飛び続けたいと思う。

2023年10月25日
小川 格

Art Center Ongoingでは、小川格 × ソニー・スズキの二人展『ジャンクフード、アート、スタイル & ミステリー』を開催します。小川格とソニー・スズキは、共に1969年生まれ、東京出身の画家です。Ongoingでは、小川は2019年に、ソニーは2018年にそれぞれ個展を開催していますが、今回がはじめての二人展となります。
小川格の絵画空間には、それが何であるか、はっきりとは特定できない物体(のようなもの)が繰り返し描かれます。それは、空を飛ぶあるいは落ちる物体(のようなもの)にも見えれば、海中に浮かぶあるいは沈む物体(のようなもの)にも見えます。そうした物体(のようなもの)に共通するのは、全て中身が空っぽであるということ。その空白ゆえか、観るものは小川が描き出す物体(のようなもの)から、それが何なのかを自由に想像することが許されます。小川は自身の絵画に言葉による明確な答を用意することはありません。空っぽの物体(のようなもの)は、観者のイマジネーションを待ちながら、小川の絵画空間の中でたゆたい続けるのです。
一方のソニー・スズキの絵画空間には、様々なキャラクーが登場します。マスクを被り素顔を隠す者もいれば、ロックスターのような風貌の者、また、目がやたらと大きい一昔前の少女漫画に出てくるような者たちが描かれることもあります。その表情や佇まいから、1枚の絵画では終わらない前後の物語性が感じられ、背景となる世界観の中でそれぞれのキャラクターたちがどのような役割を演じているのかを観るものに想像させてくれもします。また音楽やファッションなど、ソニー・スズキ自身が体験してきたであろう、様々なカルチャーが絵画空間から垣間見えるのも彼の作品の魅力の一つでもあります。
作品を見比べただけでは共通点を見つけるのが難しいようにも思える二人ですが、90年代に同じ学校で絵を学んでいた過去があります。卒業後、小川はベルギー・アントワープへ、ソニー・スズキはアメリカ・ニューヨークへと移り住み、それぞれ絵画を描き続けることになるのですが、小川がベルギーへ旅立つ際、いつの日か一緒に展示をしようと二人は約束したのだといいます。現在は、小川は長野で、ソニー・スズキは東京で制作を続けていますが、約30年の時を経てその約束が実現されることになりました。
小川格、ソニー・スズキ、それぞれが歩んできた絵画との葛藤とその軌跡。その二つがあいまみえる時どんな化学反応が立ち現れるのでしょうか。四半世紀以上前に交わした二人の画家の約束の展覧会、ぜひ多くの方々にご覧いただければと思います。

会期中イベント

10月28日(土)18:00-
レセプション

1,000円(軽食+1Drink+入場料)


11月5日(日)16:00-
オンゴーイングスクール

1,000円(お好きなケーキ+1Drink+入場料)
中高生にもわかる作家本人による展示作品解説
作品について色々と熱く分かり易くたっぷりMAJIに語り尽くしたい。

小川格

1969  東京都生まれ(2002より長野県茅野市在住)1997  ベルギー王立アントワープ美術アカデミー修了展示活動の他、プロジェクトの企画、小中学校への出張授業、ワークショップ、絵画教室等も実践。 近年の展覧会(抜粋 […]

ソニー・スズキ

青春絵画X現代神話をコンセプトに活動するネオグラム画家。東京都在住。両性具有的なモデルたちを通して現代と対峙する人々の感覚や声を描き、音楽的グルーヴ要素を散りばめる作風で国内外にて発表をコンスタントに行う。 1969年: […]