川本の作品を見ているとどことなく懐かしさと共感を覚える。
これは私が彫刻を作る以前から持っている根源的な感覚な気がしている。
今回はそんな私の一方的な無意識な感覚からいかに二人展ができるかを考え始めた。
話し合いを重ねていく中でお互いのバックボーンは異なるし、環境においても異なることだらけであったが、制作をする中で意識している核となる部分や趣味的に共通することが意外にもあることが分かり、その偶発的な経験とお互い二元的な問題を扱ったりしているところから、思い切りのよいタイトルになったと思う。
「善悪」というフレーズに引っ張られがちだが、私は「今日この頃」という部分の重要性を感じている。生活が変わりゆく一方で、善し悪しの意見は変わりづらい。同時代に生きている者が何を見て何を感じているのか、彫刻と映像を鑑賞して頂きたい。
上野聖人

上野くんの彫刻は一木から人間が人間のかたちを与えたもので、もはやそれは木ではなくなる。不思議なことだと思う。人間のかたち、というのはしばしば人間の精神のかたちのように思える。

期待する、信じる、わかる、善い、悪い、作品化etc…。
の、かたち。

例えば誰かをおもうとき、自分の中でテキストや言葉にならない精神的な表象を誰かに象徴させ、代弁させる。嘘を与え自分のなかの誰かを育むことはできる。
しかしそれは本当の意味で、他者に近づいたことにはならないだろう。

では上野くんの彫刻は嘘なのか。しかし、それはかなり重たい。心ではなく、物理的に、だ。
…そこにわたしの映像があったとき、遠いのか近いのか。そんなことをかんがえた今日この頃である。
川本仁紀

この度、Art Center Ongoing では、上野聖人と川本仁紀による二人展「今日この頃の善悪」を開催いたします。
上野と川本は、共に2023年に武蔵野美術大学を卒業。上野は主に彫刻を、川本は映像を扱った作品を制作しています。本展示では、作品の形態やバックボーンの異なる二人が、近況報告を重ねることを通して、お互いの共通項を探りながら制作を展開していきました。
上野は、これまで、中性的な人をモチーフに、一木造りという、一本の丸太から作品を掘り出す伝統的な技法を用いて制作してきました。代表的なものとしては、トイレのピクトグラムのように簡素化された男女の身体を形状化し、光の三原色を意識した着彩を施した彫刻作品などがあります。しかし、今回の展示では、これまでの作品とは打って変わり、男女の身体を半分に分けないボディに、着彩を施さない作品を発表します。本作を制作する際、個展ではなく二人展であるという意識を持ち、また、川本から、彫刻を着彩しない選択肢はないかと問われたことをきっかけに、色と造形について思索していると上野は話します。
一方の川本は、今回、新作の映像作品を発表します。川本は、私たちが見ている人間のかたちについて、目には見えないような、精神や内面を象徴づけていると話します。私たちは、本来、他人について完全に知ることはできません。そのため、あくまで予測に基づいて、ときには、テキストなどの具体的な存在から妄想を繰り広げることで、他人について考えているのです。上野の彫刻と川本の映像が同じ環境で展示されることにより、作品同士の関係を第三者に定義付けられてしまう可能性を受け止めたうえで、展示を構成しています。
本展示に出展する作品について、上野は、これまでと異なる手法やモチーフを扱っているという点から実験的であると語り、また、川本は、自身の制作の手法について、過去の作品から焼き直すのではなく、変化を生じさせているのだと話します。お互いに影響を及ぼし合った作品と作品の関係性、是非、展示会場で直接感じ取っていただければ幸いです。
（Art Center Ongoing 松岡はる）

会期中イベント

12月15日（金）19:00-
オープニングパーティー
1,000円（軽食＋1Drink+入場料）


12月23日（土）17:00-21:00
4時間だけのバカンス〜good トリップ〜
1,000円（1Drink+入場料）
善と悪の味、堪能してみませんか！？
「今日この頃の善悪」出展作家の上野、川本presents 善/悪のお茶とお酒を飲みながら、出展作家の制作音や身の回りの音を使ったアンビエントをお楽しみいただけます。(入場料のセレクトティーが善悪のお茶かお酒に交換できます。)


12月24日（日）15:00-
オンゴーイングスクール
1,000円（お好きなケーキ+1Drink＋入場料）
中高生にもわかる作家本人による展示作品解説