中村葵
1994 福島県生まれ2016 武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻卒業2018 同大学院修士課程造形研究科油絵コース修了 東京を拠点に、映像、インスタレーションの制作を行っている。映像や文字、声の持つ性質を逆手にとり、身体や […]
2024.4.10[水]_ 2024.4.21[日]
12:00‒21:00(月火定休、水木金は16:00〜18:00まで一時休憩)
入場料: 400円(セレクトティー付き)
江戸時代、行灯の油を舐める猫は化け猫と呼ばれ、その姿から多くの歌舞伎や錦絵が作られた。当時の行灯の油は、菜種などの植物性のほか、魚や鯨を材料としたものが安価に取引されており、灯すと匂いがすることもあったという。
猫は本来肉食であるが、ペットフードのない時代は人の食べ物を与えられることも多く、江戸の米中心の食生活の中では、油由来の栄養が慢性的に不足していた。化猫と言われた彼らは、必要に駆られて行灯の油を舐めていたのだ。
日本は明治の富国強兵政策以降、乳製品によって国民の身体を強くし、外国に追いつこうとしていた時期がある。しかし資源不足でバターを作るのが難しいときや、広く供給が必要な時などは、安価で大量に作ることができるマーガリン(当時は人造バターと呼ばれた)が重宝されてきた。現在のマーガリンはほとんど植物性だが、その当時は植物油のほか、魚や鯨の油も使われていたという。
植物、魚、鯨を使った油。代用の栄養。猫は行灯の油を舐め、人はマーガリンから栄養を得ていた。あのとき化け猫と呼んだのは、誰のことだったのだろう。
油を捏ねる音から声を作り、猫と人が混ざった姿で、過去と未来を練り合わせる物語を語ろうと思う。
中村葵
この度、Art Center Ongoingでは、中村葵による個展「夜 猫ら並ぶ行灯 油なら捏ねるよ」を開催します。中村葵は、1994年生まれのアーティスト。映像を用いた展示作品を主として制作を続けています。これまでの代表作に、通常の20分の1の速さで物語を朗読してから、20倍速の早送りで再生した作品「マールスの日」(2016)や、3DCGでつくられたネズミが、ネズミにしか聞こえない超音波で、ネズミや人間、進化について語る作品「ラットゥスの家」(2021)などがあります。
本展では3DCGを扱った映像インスタレーション作品を発表します。作品世界の舞台となるのは、江戸の街です。江戸時代、整備されてしまった街の中で、栄養を摂取するために行灯の油を舐めていた猫が、化け猫と称されていた話と、かつて、富国強兵政策の過程で生産されるようになったマーガリンの油に、魚や鯨がつかわれていた話が、相互に絡まるように展開していきます。
人間と生活を共にすることによって栄養が足りなくなった猫を化け猫と呼ぶ行為、また、個人が健康になることを国家のスローガンとするやりくりは、個人と制度の境界を曖昧にしてしまう歪さがあるとして、中村の目には奇妙にうつります。
そして、本展のタイトル「夜 猫ら並ぶ行灯 油なら捏ねるよ」が回文になっているように、中村は、イメージを言葉にすること、もしくは、言葉上の条件からイメージが生まれることに興味を持っています。そうした言葉を用いて組み込まれた整合性を壊すために、中村は、映像や音を扱っているといいます。文章による伏線や余裕と、それらを裏切るための、ある種の呪いのような映像と音は、まるで、マッチポンプのように作用します。
ところで、かつて、マーガリンは、身体に悪影響を及ぼす可能性があると唱えられていました。その理由のひとつに、トランス脂肪酸という脂肪の構成成分が多く含まれていたことが挙げられます。しかし、今日、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸はバターのおよそ半分になっていると言います。そういった情報を知らずに、先入観を持ってバターを選ぶことに対する反省、また、人間との共存を理由に化け猫と呼ばれた猫を違う名前で受け止めてみること、あるいは、そもそも、マジョリティとして特異なものを受け入れてあげようと思うこと自体に孕まれる危険性。本展は、そういった、制度や他者に対する固定化された眼差しを、少しでも分解するきっかけになりうるものだと思います。
それぞれ独立していた事象が、中村の手によって、あたらしい物語に統括されていく様子を、ぜひこの機会にご高覧ください。
(Art Center Ongoing 松岡はる)
4月14日(日)17:00-
オープニングパーティー
1,000円(軽食+1Drink+入場料)
4月20日(土)19:30-
トーク「言葉の足場をくぐって」
ゲスト:大石一貴 (彫刻家)
1,000円(1Drink+入場料)
4月21日(日)17:00-
オンゴーイングスクール
1,000円(お好きなケーキ+1Drink+入場料)
中高生にもわかる作家本人による展示作品解説
1994 福島県生まれ2016 武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻卒業2018 同大学院修士課程造形研究科油絵コース修了 東京を拠点に、映像、インスタレーションの制作を行っている。映像や文字、声の持つ性質を逆手にとり、身体や […]