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3月24日 (土) 19:00～
パーティー＆パフォーマンス
Ongoing AIR（オンゴーイング・アーティスト・イン・レジデンス）第25弾、
北アイルランドのベルファストからやってきたシネードことSinead O’Donnell。
滞在の最後を飾るパーティーとパフォーマンス。
ぜひ皆様、お気軽にご参加ください。

シネード・オドネルは、民族紛争に揺れる北アイルランドに生まれ、そのアイデンティティに根ざした、政治問題やフェミニズムなどを想起させるパフォーマンス作品などを長年にわたり国内外で発表してきた。今回、東京・吉祥寺のArt Center Ongoingが主催し、4回目の試みとなる相互派遣プログラムとして、ベルファストのFlax Art Studioから招聘された。2018年1月から3ヶ月間にわたり東京で行ったリサーチに基づき、映像・写真・コラージュ・パフォーマンスなど、様々な媒体を用いた作品発表となった。
展示室に足を踏み入れると、まず最初に目に止まるのは「日本の母子」と題された写真作品。一糸まとわぬ姿で、膝の上に座らせた幼子に何かを優しく語りかけるようなシネード本人の顔を、幼子は信頼し安心しきった様子で見上げている。丸窓から射す柔らかな日差しが後光のように二人を包み、まるで宗教画の母子像のよう。しかし二人に実際の血縁関係はなく、日本人でアーティストである夫との間にこどもを持つ選択をしていたら、という想像上の母子像である。年齢を重ねることで、妊娠・出産という女性ならではの役割を負えなくなることへの一抹の不安と寂寥感が漂う。隣の壁には、女性の月経血を用いたドローイング。女性が毎月生み出す卵子がたどる道筋のひとつが妊娠・出産であり、もうひとつの道筋が、妊娠に至らなかったことの肉体からの報告書でもある月経血である。妊娠可能なすべての女性に毎月起こる後者を対比的に提示することで、こどもを持つ・持たないに関わらず、女性の鑑賞者からは当事者性が引き出されてゆく。
続くのは、今年3月に東京・渋谷で行われた女性の権利を謳う「ウィメンズマーチ東京2018」に参加する女性たちのデモを納めた「国際女性デー」と題された映像作品。プラカードを掲げて誇らしげにシュプレヒコールをあげる外国人女性参加者に対し、日本人女性参加者たちは控えめに声をあげながら少し恥ずかしそうに列に連なる。中には顔を晒して自身の権利を訴えることに強い抵抗感を示す参加者も見受けられ、今も日本女性たちの前途に立ちはだかる見えない壁を感じさせる。また、日本の美術業界におけるフェミニズムに焦点を移したのが映像作品「女性たちの集会」である。アーティストやキュレーター、ライターや大学生など、様々な美術関係者である女性たちがこれまでの経験を話し合った画面を捉えたものというが、ここで提示されているのは彼女たちの笑い声だけである。楽しげな彼女たちの笑い声だけを集めた映像は、シネードから日本の女性たちへの応援歌のようにも見えるが、女性たちがその想いを顔を晒して打ち明けることの困難さがここでも見え隠れする。
会期の終わりには、レジデンス施設にこれまでの滞在アーティストたちが残していった期限切れ食材を用いることで、資本主義への問題提起を行う「反資本主義メニュー」が振る舞われたパーティーとともに、日本人アーティスト、インドネシア人キュレーターとシネードによるパフォーマンスも行われ、多くの人を集めた。小さな鐘の音とともに始まったパフォーマンスは、炭の粉や赤い絵の具、ろうそくや炎などを用いた崇高な儀式のようで、観賞者たちもことの次第を固唾を飲んで見守る。内腿に書かれた歌詞をたどりながら日本の伝統的な童謡「たきび」を歌う場面では、そのコミカルな動作に笑いが起こるなど、参加者たちの緊張の糸も終盤に差し掛かった頃には少しずつほぐれていった。パフォーマンスは、赤いワンピースを半分脱ぎ上半身を露わにした姿で行われたが、終始彼女の長い髪でその顔は覆い隠されており、日本女性たちが顔を晒して自らの権利を主張できない状況にそのまま重なる。
日本のアート業界で活躍を続ける女性たちに彼女が残してくれたエールは、格差を感じることのない日本に生きる日まで、小さなお守りのように力を与え続けるだろう。
文：脇屋佐起子