Art Center Ongoing

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Ongoingとの出会いに乾杯!

地主麻衣子(アーティスト)

Art Center Ongoingが10周年を迎えるとのこと、おめでとうございます! 川崎生まれ、Ongoing育ちの私としては感慨深いものがあります。
私が初めてOngoingに来たのは、たしか2008年9月のOngoing FESだったはずと思っていたのですが、今ウェブサイトを確認してみたらそれは記憶違いだったのかもしれません。その2ヵ月前、2008年6月に開催されていた鮫島大輔さんの展示を見た記憶があるのです。私はそのとき多摩美術大学油画科の大学院1年生で、当時、鮫島さんは助手でした。私がOngoingの存在を初めて知ったのは、2008年春のArt Award Tokyoで知り合った映像作家の鈴木光くんが「Ongoingという面白い場所がある」と言っていたからで、おそらくそれで名前を覚えていて、鮫島さんが展示をしていたから、じゃあ行ってみよう、となったのかもしれません。
つまり、私はオープンしてから5ヵ月目のOngoingに行ったということになります。意外と早くから関わっていたんだなという思いとともに、当時まだ学生だった自分がこの10年でいかに変わったかを考えると、Ongoingと一緒に過ごしたこの10年間は、自分が作家としてヨチヨチ歩きから曲がりなりにも1人で立ち上がり歩くことができるようになるまでの過程とそっくり重なっていることに気がつきました。
その頃、私はまだ映像を作っていなくて、小説家になりたいと思っていました。小学生のときは漫画家になりたかったけれどすぐに挫折し、中学生のときはティーンエイジャーが読むような恋愛小説を書こうとして挫折し、高校生のときにはロックバンドのライブに足繁く通って美術になんて全く興味がなかった私が、授業中に落書きばっかりしているのを隣の席の美術予備校に通う同級生に見つかり、予備校に勧誘されて美術の道に入ることになってしまってからというもの、大学時代はペンや水彩などでドローイングを主に制作していましたが、美術がなんなのかよくわからずにいました。周りには絵画を真摯に信じる人たちがいて、その人たちの前で、自分の絵が絵画なのかイラストレーションなのかよくわからない、実のところどっちだっていい、という思いを表明するのは憚られました。だから小さな頃から自分にとってリアリティーがあった「物語を作ること」を拠り所にしていたんだと思います。大学院では油画科にいるにも関わらず、小説を書いていました。(今ではぜったい読み返せないような代物ですが…)そして講評や学園祭では、その文章を朗読していました。あきらかに浮いていたし、自分がこれからどこに向かうのかよくわかりませんでした。
そんなわけで、Ongoingに初めて足を踏み入れたときに、なんだかピンと来てしまったのです。特にOngoing FESはなんでもありのカオスで、絵画や彫刻の展示だけではなくライブやパフォーマンスや芝居までやっていたので、やっと自分の居場所を見つけたような気がしたのでした。そして、忘れもしない2008年初冬、私はポートフォリオを持参して、突撃プレゼンに挑んだのです。
たしか平日の夜7時頃だったと思います。Ongoingにはセーターを着た小川さん以外誰もいなくて、石油ストーブの上に置かれたやかんから湯気がでていました。Ongoingの1階カフェの照明は暖色系の白熱球で、吉祥寺の夜の住宅街にぽっかり浮かぶ球体のなかに入っているような印象がありました。私は小川さんから少し離れたテーブルに座って必死に様子を伺っていましたが、そんなことはおくびにも出さず温かい紅茶を飲んでいました。そのうちに小川さんが話しかけてくれたので、始めはそのときにOngoingでやっていた展示の感想などを話して、そのうちに自分が美大生であること、作品のことを話しました。小川さんは丁寧にポートフォリオを見てくれました。なんとなく小川さんがどのくらいのスピードでポートフォリオを見ていたか、今思い出すことができます。そのページのめくり方を。私は作品についてどんな感想を言われるのか気が気ではありませんでした。基本的に私は学校では劣等生だったので、酷評されるのではないかと思っていたのです。小川さんは最後まで見て、もうすぐOngoing Xmasというグループ展をやるから、出したら?とだけ言ってくれました。私は嬉しくて、帰り道スキップしたいような気分でした。Ongoingを出てからサンロード商店街に至るまでの小道で、たしかに若干スキップ気味だったかもしれません。そのとき、なぜだかなんとなく小川さんとはこの先もずっと関係が続くような気がしました。
今、私はニューヨークでこの文章を書いています。10年前の私は自分が作家としてニューヨークに来るなんて、それこそ全く思っていなかったです。人生は不思議で、そして私の人生は多くの縁と出会いに恵まれているなと思います。Ongoingとの出会いに乾杯! 次の10年もOngoingと一緒に年をとっていきたいです。