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爪あと

淺井裕介(アーティスト)

僕が小川さんに出会ったのはたぶん2006年ごろ、まだオンゴーイングが場所としてアートセンターの形態をとる前、アーティスト主体の展覧会形式の最後の展覧会でした、その中で小川さんはまだアーティストとしての制作を行っていて、当時はみんな20後半から30代に入ろうとする頃だから今思うとちょうど学生からみんなそれぞれの武器を手にして本格的に社会に突撃していくそういう時期だったのかなと思う。
展覧会は当時まだ引越しして間もない横浜のBankART NYKで行われた、そこには和田(昌宏)君や山本(篤)君、井出(賢嗣)君や東野(哲史)さんなど今もオンゴーイングでは欠かせないアーティストコミュニティーがすでに出来上がっていて、大学にも行ったことがないし、初参加でグループ展慣れしていない自分は、説明会が行われるなぜだか東大(当時小川さんはまだここの院生だった)や、飲み会の席にドキドキしながら足を運びつつ、熱い芸術談義(泥酔、バカ話含む)に耳を傾けとにかくこの場所でいいものを作りたいというやりがいを感じまくったことを覚えている。小川さんはその後もコミュニティーをどんどん広げていき今では東京を代表するアートディレクターとなって僕たちによりやりがいのある活動の場を切り開いてくれている、そのやりがいはどこから来るのか? 答えは簡単で、誰かが頑張っていると自分もまだまだ頑張れる、隣の灯りがまだついているから自分もまだ寝ずに頑張れるということで、とにかく先頭に立って(時には平衡感覚を失うほどに※1)「良いアート」ではなく「やばいアート」とともに道なき道を走り続けるこの人をあっと言わせたいのだ、きっと多くのアーティストがそう思いながらこの場所を訪れ、新たな試みについていきたいと思うのだろう。 
せっかくなのでオンゴーイングでの自分の展覧会の話を二つ、一つ目はオンゴーイングが出来立ての2008年の「のびちぢみするつち」という展覧会で、今では自分の代表作となる泥絵シリーズを国内では初めて行ったもの、この時は確か井の頭公園や、近くの神社の土の他、当時吉祥寺南口に駅ビルとしてまだどんと存在感を放っていたユザワヤの園芸品や陶土コーナーで買った土を使って描きました、まだ自分ですらどんなものかもよくわからない泥絵という手法を快く(?)受け入れてもらい、ギャラリーの壁から窓、トイレの鏡、そして内緒でギャラリーに来る途中の路上までキャンバスにさせてもらいました。(※2)
もう一つは「草の実」という、小麦粉を使った展覧会。これもオンゴーイングで初めて挑戦したものでしたが確かこの時にオンゴーイングは今の1ドリンクチケット制になった時で、世界中にある土で絵が描けたり、小麦粉で描けた りすれば困らないだろうなという単純な発想でしたが、有料となるとみる人の目も変わるだろうしこれは気を引き締めなくてはとプレッシャーを感じたことを記憶しています。
この時にカウンターに描いた絵が、今もまだ残してくれていてオンゴーイングに行くたびに当時の武者震いのような気持ちを懐かしく思います。
最近のことはわからないけど(たぶん今も)当時のオンゴーイングでの制作は驚くほど自由でした、特にこれはダメということもなく、制作時間も、手段も好きにやらせてもらい僕以外にも泊まり込みで制作を行う作家も多かったと思います。その中には泥絵や粉絵をここで初めてやらせてもらえたように、オンゴーイングでなければ発表の機会が見送られたものもたくさんあったことは想像に難しくありません。
そんなオンゴーイングが気づけば10周年、ディープなネットワークは年齢を越え、国境を越え縦に横に広がりより複雑になり、どっかりと根を張ってこれで安泰!なんてなかなか難しいとは思うけれど、社会の中で継続し拡大していくすごさを横目でひしひし感じながら今もきっと多くのアーティストにとってそうであるように、何かあれば喜んでその現在進行形の枝の下に集いたい場所であり続けています。
最後に、ものづくりにとって必要なことは、わかったような気持ちにならないことだと最近よく思います、何かが「わかった」途端に新鮮さが失われてそのものでいられなくなるのだと思います、オンゴーイングというなんだかわからないけど、やりがいのある企みを是非これからも拡張してほしいと願うとともに、その新たな企みにこれからも関わりつづけられるようより一層、自分の武器に磨きをかけてこのディープコミュニティーに爪痕残していきたいと改めて思うのでした。

※1 比喩でなく一時期の小川さんは仕事のやり過ぎか飲みすぎか本当に地面が揺れて見えると笑いながら言っていた。
※2 オンゴーイングに来る途中の教会近くのパーキングの壁に描かれたグラフィティーをなぞるようにしてピンク色のテープで植物を制作した作品