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ボーダーマン

村田峰紀

2019.03.13 [水] - 2019.03.24 [日]
12:00-21:00 定休:月、火 入場料:¥400(セレクト・ティー付き)

アジアの木版画運動について学んだ時、80年代に入ってからも木版画をつかっているのか、コピー機ではなくなぜ版画なのかわかりませんでした。自分たちの辛い日常を版に描いて紙に刷ったときのネガとポジの関係性で願いみたいなものが含まれていると思いました。そうしたら自分の中で勝手に納得がいきました。反転すると世界が変わる。

5年前の個展「ネックライブ」の反転です。

社会-個人、定位置-可動、ビジュアルの反転、自身-他者、非言語-言語(映像の文字は私のパフォーマンス時に発せられる唸り声をアプリに通して文字にしたものです。)私はギャラリー空間をさまよいながら床にドローイングを1日6時間かいていました。孤独で辛いドローイング行為の痕跡を鑑賞者が版画でハッピーな作品を持ち帰ることができます。

Photo:若林勇人(Hayato Wakabayashi)

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3月16日(土)19:00~
オープニング・パーティー

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3月17日(日)19:00~
トークイベント「パフォーマンスってなんだ?」
出演:木村覚、村田峰紀

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3月21日(祝/木)18:00~
ライブパフォーマンス
出演:片岡祐介、村田峰紀

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3月22日(金)19:00~
首くくり栲象一周忌(非公式)という事で飲み会を開く
出演:安藤朋子、福留麻里、山川冬樹、村田峰紀、他

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3月24日(日)15:00〜
Pre Ongoing School
作家本人による展示作品の解説を交えてのレクチャー。お好きなケーキとお飲物がついてきます。

村田くんのパフォーマンスを初めて目撃したのは2005年のこと。その時の彼は真っ白なYシャツを着て、鉛筆の芯だけをポッキーのようにポリポリと食べていた。もちろん美味しいはずもないし身体にも悪いに決まっている。数本食べると「おえー」と黒い液体を口から吐き出し、白いYシャツの胸のあたりが黒く染まる。休むことなく村田くんは再び鉛筆の芯を食べはじめる。そしてまたしばらくすると「おえー」。白と黒の色彩、口の中で砕かれる芯の音。なによりひょろりと背が高く、無表情で芯を食べ続ける髪の長い村田くん本人の印象が強烈すぎて、ゴーレムというニックネームが頭に浮かんだ。
今もそれほど変わっていないと思うけど、当時パフォーマンスという表現を主としている現代美術作家は僕と同世代には多くはいなかった。さらにゴーレムを想起させるあのインパクトである。村田くんと一緒に仕事をするようになるのは自然の流れで、僕の企画する数々の展覧会で、オープニングや会期中のイベント時にパフォーマンスをお願いすることになる。彼のパフォーマンスを目撃する観客は、ほとんどの場合、エッと口を押さえ驚くと同時に、なぜか笑みがこぼれてしまう。僕も例外なく毎回爆笑するのだけど、あれはきっと、理解できないものを間近で目撃した人間特有の表情なのであろう。
「うんうんうんうんうんうんうん、うんうんうんうんうんうんうん、うんうんうんうんうんうんうん」 パーフォーマンスの際、村田くんの身体から発っせられる言葉にならない唸り声。辞書やコピー用紙や木の板、時にはテレビのモニターなんかを、ドローイングと称し一度聞いたら忘れられないあの唸り声を発しながら、一心不乱にペンでゴリゴリと殴り書きしていく。子供がクレヨンをグーで握りしめ、形になるまえの形を描くように。時を待たず筆跡の力にペンは負けてしまい、その度に、村田くんは新しいペンに握り変える。彼のパフォーマンスは数分の時もあれば、数週間にわたることもある。最後に残るのは、描かれたというより削り取られた対象の残骸で、そこには汗はもちろん時間やプロセスがしみ込んでいて、どうしてだか、いつだって、とても美しい。
驚きが笑いに変わり、最後に美しさが残る。なんとも詩的なプロセスだけど、時にそれは感動にさえ昇華することもある。2016年に、村田くんが尊敬してやまない首くくり栲象さんと山川冬樹さんをゲストに招き、自身で企画した前橋でのイベントのこと。二人の稀代のパフォーマーに気後れすることなく、村田くんは全力で応戦。1時間以上続いたパフォーマンスが終盤に差し掛かった際、仄暗い広い会場に響き渡る「イクゾー」というゴーレムの雄叫び。村田くんは、両足をガチガチに固定され、そこに結びつけられたロープが天井を中継し機械によって巻き取られていく。ゆっくりと逆さまに宙づりにされ、汗だくになりながらゆっくりと揺れている村田くんを見ていたら、涙が頬を伝った。
Ongoingでは、実に7年ぶりとなる今回の個展。再びあの唸り声がOngoingの空間に響き渡ることを想像すると笑みが溢れる。いつしか稀代のパフォーマーとなっていたゴーレムは、今日も驚きと笑いと美しさと時に感動を私たちの目の前に差し出してくれるだろう。どろりと生のまま。
(Art Center Ongoing 小川希)

村田峰紀

1979 年群馬県生まれ前橋市在住。2005 年多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業。原初的な行為で ” かく ” ことの語源にある4つの要素を 意識=書く、結果=描く、行為=掻く、潜在=欠く、と捉え […]