Art Center Ongoing

SEARCH EXHIBITION & ARTISTS

立体3

井出賢嗣

2020.12.16 [水] - 2020.12.27 [日]
12:00-21:00 定休:月、火 入場料:¥400(お菓子付き)

こんにちは井出賢嗣です。

今回展示するのは数年来作品の中で扱っていた『車でのドライブ』から生まれた立体物です。

運転しながら見えるものは、車のスピードで移り変わっていく風景と一方で運転しながら思考する自意識が相まって、景色を立体的に(時に映画を)見ているような身体感覚を与えます。そこでは形や記憶が重なり、様々な立体の可能性を想起させます。

1999年の映画『シェイディーグローブ』の中では主人公の甲野が彷徨いながら1つの行動を生み出す過程を、甲野が車を運転する景色を多用することでその変化を示唆させます。また1969年発行版画集『終わりなきパリ(Paris san fin)』の中には晩年ジャコメッティが車の中から描いたパリの景色が幾つか収められています。

コロナ禍にあって他人に接触することがネガティブになっている昨今、移動する閉じられた自己空間としてドライブ中にみる景色を立体にしました。

*****
<会期中イベント>

■■■
12月17日(木)19:00〜
「オンゴーイング・スタジオ 2020/12/17」
Pre Ongoing School
作家本人による展示作品の解説を交えてのレクチャーを、インターネットで配信します。
https://youtu.be/KqKU_t5BWJ4

■■■
12月26日(土)19:00〜(予定)
2020年思い出しドライブ in マーク2
with 小川 希

井出くんはどんな人かと、彼を知らない人に尋ねられたら、賑やかな人と、彼を知る人は答えてしまうかもしれない。なぜなら、彼の周りにはいつも沢山の人がいて、そこではいろいろな出来事が同時に起こり、そしてその中心で様々なエピソードを途切れることなく楽しそうに話している、いつもの井出くんをイメージしてしまうから。
実際、井出くんはとても話がうまい。美術のこと、文化のこと、政治や社会のこと、そして友達のこと、最近では新しい家族のことなんかもよく話してくれる。どんな話でも、当たり障りのないものはほとんどなくって、独自の批評も交えながら詳細まで話してくれるので、長く聞いていても全然退屈しない。もともと頭がいいのだろう。機知に富んだ展示の企画を考えたり、自身のスタジオ地域を外に向けて発信したりもしていて、いろんな才能を持っている。
こうして書いてみると、プロデューサーのようなガツガツした仕事に向いている気もしてくるけれど、実際のところそれらは井出くんの一部分でしかなく、時折、真逆の顔が垣間見えることがある。それは、もの静かで繊細で極めて孤独なアーティストとしての井出くんの顔である。
井出くんと出会ったのはもう15年も前のことだけど、そのころの彼は、着色したベニヤ板や木材を使い、彼自身が実際に見てきた風景をもとにした立体物を作っていた。その後は、映像やパフォーマンスなんかも手がけてきたが、ここ最近はまたベニヤ板や木材を用いた立体作品に戻ってきているようだ。
井出くんが作るものは、何かを具体的に描いているようでありながら、それが何かは判然としない。おそらく、とても私的な経験や記憶から井出くんの作品は生み出されていて、だから観る側にはそれが何かをはっきりとわかるのは難しい。だがしかし、ふと気づけば、どうしてだか彼の作品に感情移入をしてしまっている自分がいることに気づく。懐かしさだったり、寂しさだったり、切なさだったり、そこになんらかの物語を感じとってしまうのだ。
先に風景と書いたけど、井出くんの描き出すのは情景といったほうが正しい気がする。心のどこかにしまってあった感情を思い起こさせるもの。そこには特定の場所や人物は描きだされず、だから逆に自らの記憶をすり合わせやすかったりもするわけで、いつかどこかで見た、ただもう二度と戻ることはできない「あの時の情景」が内包するのである。
今回の井出くんの個展では「車でのドライブ」から生まれた立体物が並ぶという。車窓からの情景だなんて、きっとまた、いろいろな記憶が蘇ってくるに違いない。「僕の大切な時間や空間に勝手に感情移入しないでくれよ」と、いつもの賑やかな井出くんであれば、冗談交じりに面白おかしく笑い飛ばしてくれるかもしれないけれど。
小川希(Art Center Ongoing)
No image

井出賢嗣

1981年横須賀生まれ、個人、恋愛、生活をテーマに立体インスターレションで表現をする。近年は物事の裏側にある人間臭い不安定な情緒、センチメンタルな物語を事実、フィクションをない交ぜに制作した立体物とプロセスを示す映像とを […]