Art Center Ongoing

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「Ongoingな」場所

冨井大裕(美術家)

私がArt Center Ongoingと関わり始めたのは、ここでの最初の個展を開催した2009年。正確には、私が2008年にアートプログラム青梅という展覧会に参加していた時に、Ongoingのオーナーの小川さんがふらりと現れて、「うちで展覧会をしませんか」と誘ってくれたことが付き合いの始まりだ。その頃のOngoingは、良い意味で若くて、浅くて、勢いに身を任せている作家たちが集まり始めている場所であった。いい感じの店構えとは正反対の野蛮でザワザワとした場所であった。当時、私は美術大学で助手をしていたのだが、「大学では優秀と定義しづらい優秀な学生」たちに小川さんは熱心に声を掛けてくれていた。そういう作家や若者が集まる場所だから、当時のOngoingは正しく「Ongoingな」場所であった。
私は、そんな「Ongoingな」熱気真っ盛りの時に声をかけて貰い、展示をすることになった。熱気とは真逆の淡麗な作風の私に小川さんは何を期待しているのか。引き受けた後で申し訳なかったのだが、私は色々と考えた。考えた末に浮かんだのは、会場でのオープニングパーティの後に酔った小川さんが時折放つ一言だ。「オモシレェ〜ナ〜」。普段はとても丁寧で物静かな口調の小川さんが放つヤクザな一言。この一言には小川さんの芸術文化全般への愛情が込められている——「オモシレェ〜ナ〜」と思ったものは何でも引き受ける。そこから筋道を考える。これこそ「Ongoingな」精神であり、心意気ではないか。私は、小川さんから直接「オモシレェ〜ナ〜」と言われたわけではないのだが、多分、そんな小川さんに声をかけられたのだから「オモシレェ〜ナ〜作家」予備軍ではあるのだろう。ならば、これでいいのだと開き直り、事前に展覧会のプランを立てることは止めた。何となく作り溜めていたものを直感で選んで展示していく。これまでにOngoingでは3回の個展を開催してきたが、この方向性は変わらない。註1
展示とは別にOngoingの個展で大いに頭を悩まされるのが、会期中開催することになっているイベントの企画である。イベントは、飲食の収入で運営費を賄っているOngoingにとっては重要事である。イベントがあれば人が集まる。人が集まればお酒やコーヒーを飲む。元気があれば何とかなるというものではない。人が集まり、お金が集まることが場所の維持にそのまま直結するのである。運営も「Ongoingな」この場所で好き勝手な展覧会をさせて貰っている作家たちにとって、イベントは内容も勿論だが結果を出さなければならない重要なタスクである。
イベントの多くは、その時の出品作家とゲストの対談か、ゲストを呼んでのライブパフォーマンスだろう。特に若いピチピチの「オモシレェ〜ナ〜作家」が対談をする場合、相手ゲストは小川さんの直感で決めることもある。そういう時のゲストは決まって強烈で意外性抜群の方々だ。「オモシレェ〜ナ〜作家」と針生一郎、「オモシレェ〜ナ〜作家」と菅直人…こういうブッキングをする小川さんは、きっとプロレスの業界に入ってもイケイケのブッカーとして名を馳せるだろう。「いつか、小川さんにブッキングされてみたい」と思いつつ、Ongoingでは年配作家の部類に入る私は、なるべく小川さんに迷惑を掛けない様に自主興行のイベントを企画する。企画の大半は、美術にとって大事な問題でありながら公の会場では企画しづらいニッチなお題についてその当事者に話を聞くというものだ。註2独立採算の小規模スペースだから出来ることである。業界の大文字を動かすことが美術館の仕事なら、小文字を動かしまくることがアートセンターの本懐だろう。小文字に人を集め、お金を集め、更なる小文字の運動を促していく。大文字だけが我が者顔で歩き回る業界に明日はない。そんなことを感じている人がまだまだこの地域、この都市、この国、この世の中に大勢いることを、私はイベントが満員御礼になった時、そしてArt Center Ongoingが存続している現在から感じている。
ここで締めるといい感じで終わりそうなのだが、もう少し所感を。私は、近年の小川さんは忙しすぎると感じている。活発化した小文字の動きを死守する為に奔走し、結果、その存在と活動の範囲が大文字化しているという印象だ。「Ongoingな」場所が「Ongoingという」場所に変化するということ。
攻めと守りの境目は曖昧である。活動の幅が広がり、認知されていくことは良いことに違いないのだが、カッティングエッジな活動や場所が一度は直面する試練であることも間違いない。このことは小川さんも既に気づいていることだろう。10年を経て「Ongoingな場所」には収まらなくなったArt Center Ongoingが、今後どの様に「Ongoingな」態度を示していくか。この国の芸術文化活動の今後を考える上で大事な懸案である。

註1:展示で使った主な素材|1回目=かみ、2回目=ひも、3回目=ごみ。
註2:イベントの概要は以下を参照。
  http://www.ongoing.jp/ja/artcenter/gallery/index.php?itemid=27
  http://www.ongoing.jp/ja/artcenter/gallery/index.php?itemid=106
  http://www.ongoing.jp/ja/artcenter/gallery/index.php?itemid=346