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紙屑と空間

冨井大裕

2020.09.02 [水] - 2020.09.13 [日]
12:00-21:00 定休:月、火 入場料:¥400(セレクト・ティー付き)

紙屑は「いい」。どうやってもいい感じになる。それはものを壊す/変えるという、人の欲望が簡単に出来て、ストレートに現れるからではないかと思う。それだけに紙屑を作品にしようとすると厄介だ。過去に何回か試してみたが、良くてセコンド乱入による無効試合といったところか(試合中、一瞬、冴えた動きを見せる。その程度)。その様な訳で紙屑はここ数年、作品の主役にはなっていなかった。が、このテキストを書く1週間前、私は突然新作を制作した、紙屑の。見た目には紙屑だが、紙屑とはあきらかに違うもの。空間を積極的に孕んだ状況的物体といったところか。そんなことがあって、紙屑に情熱が沸いた。加えて、アートセンター・オンゴーイングにおける初個展のタイトルは「かみの仕事」。私のラストジョージを「紙もの」で締め括るのも悪くない。ただし、紙屑はやはり難物である。1週間前の仕事はもうできない。今回は反則…。

冨井大裕

撮影:柳場大
©Motohiro Tomii, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

<会期中イベント>

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9月5日(土)から6(日)に配信します。
『紙について①』
ゲスト:近藤恵介(画家)×冨井大裕(美術家)
①-1
https://youtu.be/1l4TmykQwbw
①-2
https://youtu.be/Wpg-_mdrHEw


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9月12日(土)から13日(日)に配信します。
『紙について②』
ゲスト:近藤恵介(画家)×森大志郎(デザイナー)×冨井大裕(美術家)
https://youtu.be/y6moIktyNAU

イベントに関する作家コメント:
「私は、美術展で制作される印刷物を、広報や記録、資料の為のツールとしてだけではなく、実際の作品体験と同一線上に位置する別種の美術体験として捉えている。美術をデザインすることとは、美術をリクリエイトする作業ではないか」これは、2012年のオンゴーイングでの個展の際のトークイベントに記したテキストだ。オンゴーイングでは、これ以降、毎回、デザイン絡みのイベントを企画してきた。それは上述の通り、私が印刷物を記録ではなく、体験、空間として捉えている、もしくはそうあるはずだと信じているからだ。紙という空間に乗るインク(印刷)、紙面という空間を動かす(編集、バインディング)ーーーこれまではそういったことをテーマに、その実践者の方からお話を伺い、質問を投げかけてきた。今回は、これまでのテーマを全て受け止めてきた存在=紙についてのトークである。また、紙は私のような美術家にとっても、素材として、空間として、制作の壁として、深く関わっている。私のラストジョージのトークのお題に相応しい。


トークは2回行う。①時に優しく、時に厳しく、紙に並々ならぬ情熱と冷徹な眼差しを注ぐ画家、近藤恵介。その近藤さんとお互いの紙の作品について語り合う。また、被災した川崎市民ミュージアム所蔵の私と近藤さんの共作についても話す予定。②これまでの「オンゴーイング印刷物トークシリーズ」に連続で参加いただいているデザイナー森大志郎さん。その森さんと共作の経験もある近藤さんが、森さんに紙についてのあれやこれやを尋ねます。稀代の質問魔である近藤さんを前に、森さんが何を語り、示すのか。乞うご期待!


近藤恵介
1981年生まれ。画家、と名乗ることで絵画との対話を試みる。近年では、小説家・古川日出男との共同制作、美術家・冨井大裕とのワークショップなどを継続的におこなう。主な個展=連続展として2013-14年「12ヶ月のための絵画」、2017-20年「近藤恵介の『卓上の絵画』」(いずれも主にMA2ギャラリー、東京)がある他、2010年「絵画の身振り」(Satellite、岡山)、2009年「このへんからそのへん、そしてあそこらへん」(ギャラリーカウンタック、東京)、2008年「project N 34 近藤恵介」(東京オペラシティアートギャラリー、東京)など。主なグループ展=2019年「VOCA展 2019」(上野の森美術館、東京)、「、譚 近藤恵介・古川日出男」(LOKOギャラリー、東京)、2018年「絵画の現在」(府中市美術館、東京)、2017年「引込線2017」(旧所沢市第2学校給食センター、埼玉)、2013年「あっけない絵画、明快な彫刻 近藤恵介・冨井大裕<再展示>」(川崎市市民ミュージアム、神奈川)など。

森大志郎
1971年生まれ。美術展や映画祭カタログ等のエディトリアルデザインを主に手がける。主な仕事=東京都現代美術館MOTコレクション展覧会シ リーズ、『MOTアニュアル2011』(東京都現代美術館)、東京国立近代美術館ギャラリー4 展覧会シリーズ、『ぬぐ絵画』、『ヴィデオを待ちながら』(東京国立近代美術館)、『Dan Graham by Dan Graham』『瀧口修造とマルセル・デュシャン』(千葉市美術館)、『Grand Openings, Return of the Blogs』(ニューヨーク近代美術館)、『パウル・クレー おわらないアトリエ』(京都国立近代美術館)、『清方 ノスタルジア』(サントリー美術館)、『蔡国強』(広島市現代美術館)、『「出版物=印刷された問題(printed matter)」:ロバート・スミッソンの眺望』(上崎千との共作『アイデア』320、誠文堂新光社)「Rapt! 20contemporary artists from Japan」(国際交流基金)など。

東京の西のはずれで開催されていたアートイベントを観に行き、そこでたまたま冨井さんの作品に出会ったのが今から12年前のこと。ドナルド・ジャッド?  カール・アンドレ? いやフェリックス・ゴンザ=トレス?  そんな巨匠たちのマスターピースは何処吹く風と、1メートル四方ぐらいのプチプチシートは、それぞれが互いにズレることなく、何十枚も重なりあうことで立体となり、軽やかにしかし確かな存在感を持って、そこに立ち上がっているのだった。この「彫刻作品」を作った人は、美術のことをすごく知っている人なのだろうと思うのと同時に、それだけでない何かをどこかで感じ、他の作品も見てみたいと強く思った。
そこですぐにOngoingでの展示をお願いしたところ快く引き受けてくれ、2009年の5月に「かみの仕事」と題した個展を開催してくれた。それから現在に至るまで、冨井さんはOngoingで何度も展示をしてくれている。どこかでこの場所を気にかけてくれているのか、個展以外でも、ブラリと遊びにやってきて若い作家の展示を見た後に生ビールを注文する。そしていつもにこやかにいろいろな話をしてくれるのだが、カウンターに置かれたチラシやDM、その他ノートやカメラなんかが少しでも散らかっていたりすると、冨井さんの手は無意識にそれらをきちんと整理整頓している。話をしながらもピシッと完璧にだ。
そんな冨井さんに出会ってからというもの、普通に生活している中でも、この本の並べかたは冨井さんなら許せないだろうなとか、この大量の放置自転車を彼ならどのように整頓するのだろうとか想像してしまうことがよくある。スーパーの外なんかで、商品が入ったプラスチックのケースが高く積み重ねられているのを見るだけで、これ冨井さんの作品じゃんと思ったりも。おそらくこの感じを覚えるのは、彼の作品を知る人であれば、けっして僕だけではないだろう。冨井作品おそるべしである。
当の本人はといえば、Ongoingに集まってくる作家たちと自分の活動に少し距離を感じているようでもある。なぜ自分がOngoingで展示をして欲しいと言われたのかがわからないと。確かに僕が声をかける作家たちはどちらかといえば、美術の王道の作家でないことが多い。それは美術のための美術作品を作っている作家に僕が全く興味を持てないからかもしれない。ただそうした作家のほうが学芸員や批評家の目に留まりやすかったり、作品も売りやすかったりするのだろうけど、なんだかルールの決まっているゲームの中でセコセコと頑張っているようで心底つまらないのだ。
では冨井さんはどうだろうか。もちろん、大きな美術館や国際展なんかにも度々呼ばれ、作品の知名度はズバ抜けて高く、まさに王道中の王道。ただ僕の中では、冨井さんは美術をこよなく愛してはいるけれども、その中だけで戦っている作家にはどうしても見えないのだ。日常に存在するあらゆる事象を穴のあくほど観察し、その中から今まで見たことのない何かを引き出そうと考え続ける。それは古いルールを破ることで新しい価値を生み出す行為ともいえ、まさにその行為こそが冨井さんにとっての作品制作なのではないだろうか。
業界の流行を気にすることなく、且つ、築き上げた自らのスタイルの自己模倣を拒み、誰もが知っているモノをいじくりまわしながら、これまでにない世界の読み解き方をストイックに黙々と探求し続ける。そんな思考を止めない一匹狼の美術家としての冨井さんのストロングスタイルを、僕は昔から深く尊敬している。そして、ほんとに勝手な話だけど、Ongoingとのシンパシーをいつも強く感じてしまうのだ。ああ、やっぱこの人オモシレェ~ナ~って。
小川希(Art Center Ongoing)

冨井大裕

1973年新潟県生まれ、東京都在住。既製品に最小限の手を加えることで、それらを固定された意味から解放し、色や形をそなえた造形要素として、「彫刻」のあらたな可能性を模索する。また、2008年よりアーカススタジオにて、作品が […]