2008.06.13 [金] - 2008.07.06 [日]
火~木:12:00-20:00 金~土:12:00-21:00 定休日:月曜日
鮫島君は、球体に風景を描き込む『FLAT BALL』シリーズでよく知られる。『FLAT BALL』を手の中でくるくる回転させて眺めてみると、そこに空間が切り取られているかのようで、単純にすごく面白い。こりゃ職人芸だなと思い、「ビジネスの話とか来るでしょう?」とずいぶん昔に訊いてみたことがあったけど、「観光地の風景を描いて商品化してみないかという儲け話をされたことがあります」と鮫島君は笑いながら言っていた。彼の球体には、観光地とはほど遠い、どこにでもあるような日常の風景が描かれていた。

 鮫島君の空間の切り取り方は、その後、球体のみならず様々な形に派生していく。ただし、支持体がどんなに変形しても、そこに描かれるのは一貫して普通の生活で目にする、なんてことのない風景。次はどんな立体に描いてくるのだろうかと思ったことも少しはあったけど、私が彼の作品に興味を覚えていたのはそこではなかった。だから鮫島君が立体を伴わない、純粋な平面作品を発表した時、彼の視線をストレートに捉えられた気がして嬉しかった。大きなキャンバスには郊外のショッピングセンターが描かれていて、実際には行ったことがないのに、どこかで見た覚えのあるようなその風景が心にずしりと響いた。

 多くの平面作家が、その時々の流行でモチーフをころころと変えていく中、鮫島君は首尾一貫してどこにでもある日常の風景を描き続ける。それは誰しもが何処かで見たことがあり、誰しもがちゃんとは観てこなかったもの。必要とされずに記憶のどこかに置いてきた風景。それが絵画というフィルターを通し改めて提示される時、そこには強い現実感が立ち上がる。まったく知らないものに初めて出会うことより、知っていると思っていたものの中に新しいなにかを発見することの方が、驚きが大きい時もある。

 今回、鮫島君は額縁に絵を描くという。本来、絵があるべき真ん中部分は空白であり、その代わり額上に風景の切れ端が描かれる。観る者はその切れ端を手がかりに、自分が気に留めずにきた日常風景を記憶から拾い集めることになるだろう。それらが繋ぎあわされ真ん中の空白が埋められる時、そこに立ち現れるどこにでもある風景は、どんなに美しい観光地や自然の景色よりも強い存在感を持った「絶景」に変わりうるかもしれない。きっとそこに浮かび上がるのは、私たちを取り囲んでいるこの現実そのものなのだから。 ―Everyday Journey ―どこにでもある風景の中、鮫島君はそんな「絶景」を探し毎日を旅している。

Art Center Ongoing
代表 小川希


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6月14日(土) 18:00~
オープニングパーティー


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6月22日(日) 12:00~21:00
ライブ・ペインティング
会場の各所で鮫島氏がライブペインティングを行います


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6月28日(土) 19:00~
ブルーグラス ライブ
入場料:1,000円
出演:The Untitled Bluegrass Band


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7月5日(土) 18:30~
トークイベント
ゲスト:ホンマタカシ氏(写真家)
参加費:1000円(ワンドリンク付き、先着30名)

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アーティスト・インタビュー
そこらへんの景色のこと。
鮫島大輔
聞き手=小川希


■現在進行形の展開

―――僕が鮫島君の作品を初めて知った2003年の『Ongoing vol.02』の頃は、すでに風景を絵画に閉じ込めるような今のスタイルが確立されていたような気がするんだけれども、たとえば学生時代とか、現在の作風に辿り着くまでにはどんな試行錯誤があったのですか?

鮫島 こういう作品を作ろうという意思が固まってきたのは大学3年生の初頭ぐらいでしたが、その転機となったのは大学2年生の夏明けぐらいの頃なんです。それまでは、予備校でついてしまった描写の癖が抜けなくて、課題で抽象的に描けと言われても描けないとか、美大生が普通に悩むようなステレオタイプのことで悩んでいました。でもある時、全部削ぎ落としていく方向で考えてみようと思った。できないことはできないのでやめちゃって、残ったものだけで考えようと(笑)。それで、すごい抽象とか細密とかいろんな方向をいっぱい試してみて、諦めじゃないけど、自分は風景とか具体的なものを描くことしかできないという境地に達していたんですね。別に「これだ!」というわけじゃなかったけれども。そんな中、大学2年生の夏明けぐらいに、食堂でごはんを食べている時にぐるりと周りを見渡しながら、人が歩いてきてパンを買って出ていく姿なんかをぼんやり眺めているうちに、パラパラマンガではなく、ひとつの絵画の画面の中に時間というか空間の空気を閉じ込めるようなことができないかなということを思いついたんです。それで一番最初に、廊下に15メートル長の紙を貼って、そこの食堂の景色をぐるっと1周描いた絵をつなげて3周か4周連続して描いてみました。そうすると、1周目と2周目では人の位置がちょっと移動するんですね。絵としてはつながっていて、さらに時間も閉じ込めているような感じの絵になったというか。そういうことをやってみた時にパッと開けて、空間を切り取ってくるような手法って面白いと思った。当時は思いつきでやったような感じだったけれども、今から考えると、あの時が現在のスタートラインになったんだと思います。

―――それから、その手法を用いて球体に描いたりいろんな試みを実践してきているけれども、その手法がすごい成功しちゃったからこそ悩んだ部分というのもきっとあるのではないかと思います(笑)。最近はあまりトリッキーな画面ではないストレートな絵画を描くようにもなってきているし、その手法を継続してきた中での心境の変化があったら聞かせてください。

鮫島 トリッキーな手法に飽きたというわけでもないんですが、たとえば次は円にするか四角にするか立方体にするか……みたいな展開しかできなくて、アイデアはまだあったんだけれども、ちょっと自己模倣のような感じがして自分の中でズレが生じてきてしまった時期があったんです。で、自分が表現したいことを改めてもう一回考え直してみると、結局は絵画であって、空間を持ち込むというスタイルを考えた時に、なぜそれが写真じゃなくて絵で描いているのかという問題がどうしても重要になってくるわけです。そういう時によく言っていたのが、感情を排したマンガの背景画のような、主人公の脇役的な風景をチョイスして写し取るということなのですが、それでも100パーセント感情を排して描くことは絶対にできないので、そういう矛盾が自分の中に蓄積されてきて、やっぱり一回ちゃんと風景画を描かないと自分のやりたい方向が見えなくなるなと思ったので、ストレートな風景画のシリーズを始めました。そこでは、夕立前みたいな空のドラマッチックな展開がありそうな風景を描いています。そういう風景を選んだ理由は、基本的にはそこら辺にいっぱいある風景をそこら辺にいっぱいあるように描きたいというのがあって、ドラマッチックに描けばドラマチックに際立つし、ドラマチックに描かなければドラマチックにならないわけだから、なんでもない風景をドラマチックに描いて際立たせるような表現をしてみることで、自分が描きたいものというのを再認識していきたいなと思っています。


■主役は描きたくない

―――「なんでもない風景」を「なんでもなく」描くという方向にはなぜ行かなかったんでしょうね?

鮫島 自分の中ではクリアになっていても、たぶんマンガの背景のような風景をそのままをストレートに描いたら、本当に何も伝わらないんじゃないかなと思って。

―――本当に素通りされてしまう「なんでもなさ」になってしまう?

鮫島 そうそう。あと、自分の感情が絶対に入っちゃう以上、人の感情がまったくこもっていないニュートラルな状態の風景というのは描けないだろうと思うので、それだったら「ドラマチックさ」をすでに持っている風景に対して自分の感情を入れることで、ニュートラルな風景と絵の間に折り合いがつくような感じがしたんですよね。

―――そもそも、風景を描くということへのこだわりはどこから生じているのですか?

鮫島 それはすごく難しい質問ですね。自分でもちょっとよくわからないところがあるのですが、たぶん絵を描くことはやめられなくて、じゃあ何を一番表現したいのかというと、身の周りにあるこの膨大な風景が一番リアルというか、描くに値するものなんですよね。山登りをした時にそれをすごく強く感じたのですが、山登りをして非常に美しい風景に出会っても、それは描かなくてもすでに美しいわけだから自分が描くべきものじゃないと思ったんです。

―――一言で「風景画」と言っても、面白いものと面白くないものがあるというのは、結局はモチーフの問題なんですかね?

鮫島 たぶん公園で池とか桜を描いているような人たちというのは、最終的に「きれいな風景画」を目指して描こうとしているんですよね。だから観る側の「風景画」の想像の域を出ないというところがあると思うんです。僕の場合は「風景画」が描きたいわけじゃないのかな。部分的にコンクリートの質感とかパースペクティブな風景が好きとかいう感覚はあるけど、単体として建物が描きたいわけでも道路が描きたいわけでもない(笑)。逆に、身の周りにこんなにいっぱい描けるものがあるのに、なんでわざわざ池に行くのかな?とか思いますね。

―――ストレートな風景画のシリーズを描いてみたことは、トリッキーな画面の作品にも影響を与えましたか?

鮫島 それはあります。今回の額縁のシリーズも以前とは意味合いが違って、真ん中の主役の部分が抜いてあるということだから、やりたいことがより明確になった上でのトリッキーな画面シリーズということになると思います。

―――今回のシリーズは、自分の中でどんな位置にある作品ですか?

鮫島 額というのは基本的に絵画のお飾りとして絵画を際立たせるための、主役には絶対にならないものなんだけれども、きっとそこらにある風景というのはそういう存在なんだろうなと思うんです。自分の興味の在処を表現するためには主役が描きたいわけじゃないと思ったので、では脇役の風景を脇役らしく描くにはどうすればいいのかを考えた結果、額に描いちゃって中がないという状態が一番脇役らしいあり方だなと(笑)。


■どうでもいい感がたまらない

―――東京や地方都市の風景に対して特別な思い入れはありますか?

鮫島 僕はまず、景色自体がすっごい好きなんですよ。都心のビルが林立している風景も格好いいと思うし、田舎の畑ばかりが広がっているところも格好いいと思う。とにかく景色が好きな人間なんです(笑)。

―――日本の独特で雑種的な風景が特に好きだというわけではない?

鮫島 こういう作風を始めてから外国に行ったことがまだないのでちょっとわからないけど、日本の風景って絵画として見た時には格好よくないというか、絵にしにくいような気がするんですよね。やっぱり欧米の建物は格好いいんだけれども、それって西洋式の美術教育を受けたから格好いいと思うのか根源的な美的感覚から感じているのかわからない。でも基本的に日本の都市の風景は絵として描く時に難しいというか、たとえば造形として非常に格好いい歴史的な建物があったとしても、横にドン・キホーテみたいなのが建ってると、まあ雰囲気はぶち壊しなわけだから、それを描くのは色彩的にも難しいし、絵としては成り立たないような気がする。だけどそこが面白いといえば面白いんですよね。

―――鮫島君が選ぶ風景には郊外が多いけれども、郊外に対しては何か特別な思いがあるのですか?

鮫島 僕はとにかく新興住宅地が好きなんですよね。すごい計画されて建物が建っていて大きなショッピングモールがあってそこにたくさんの人が住んでいて、格好いいなと思って。

―――それは斜に構えて格好いいという感じ?

鮫島 いや、ストレートに。パースペクティブ的にも格好いいですし。たとえば京都とか浅草といった濃密な歴史のある街もまた、ヨーロッパ的な「絵になる感じ」の街なんですよね。だけど僕は歴史のない、人間が作り上げた風景の画一的な味気なさがすごく好きで、自分が絵画で描きたい感じに近いような気がするんです。

―――新興住宅地って、いわゆる美術を志している人にしてみれば、すごいダサいと思っちゃう景色なんじゃないかと思うんだけれども……、なんかわかる気もするなあ……(笑)。

鮫島 なんか若い幸せ家族がいっぱい住んでいるんだろうと思うんですよ(笑)。よく考えられた区画整備をされているから、公園なんかも広く取られているし道路も広いし人は多くないし、心休まる感じもある。だけどなんだか画一的で気持ち悪いというか、落ち着かない感じもあるんですよね。あの街って、心が入っているようで、実は誰の気持ちも入っていないんですよ。僕は京都とか浅草とかの、歴史や人生が滲み出過ぎた濃い感じが苦手で居づらい。やっぱり描くにあたっては、新興住宅地からプンプン漂うあの「どうでもいい」感や「途中」って感じがたまらなくリアルなんですよね(笑)。

(2008年5月21日、Art Center Ongoingにて収録)



鮫島 大輔 Daisuke Samejima

略歴 
1979年 兵庫県尼崎生まれ
2005年 多摩美術大学美術学部大学院美術研究科修了

主な個展 
2002年 "トーキョーワンダーウォール都庁2002" / 東京都庁舎(東京)
2003年 "WALK IN CUBE" /トーキョーワンダーサイト(東京)
2005年 "+ beautiful world +" / petal fugal(東京)
2006年 "Everyday Journey ~次元を超えたランドスケープペインティングへ~" / equal(大阪)


主なグループ展
2002年 "フィリップモリス KKアートアワード2002「THE FIRST MOVE」" / 東京国際フォーラム(東京)
2002年 "トーキョーワンダーウォール2002" / 東京都現代美術館(東京)
2003年 "Ongoing vol.02" / A.B.cafe(東京)
2004年 "景展 ~シカクノイロハ~" / 相模原市民ギャラリー(東京)
2004年 "トーキョーワンダーウォールの作家たち2000-2003" / 東京都現代美術館(東京)
"ストリートペインティング 六本木トンネル" / 六本木トンネル歩道壁面(東京)
2004年 "Ongoing vol.03 壱万円展" / 豊島区立旧朝日中学校、現にしすがも創造舎(東京)
2005年 "Ongoing vol.04 よんで みて みて" / Bankart studio NYK(横浜)
2006年 "第9回岡本太郎記念現代芸術大賞(TARO賞)展" / 川崎市岡本太郎美術館(川崎)
2006年 "Ongoing vol.05 ヨコハマエクトプラズム" / BANKART studio NYK(横浜)
2006年 "Bunkamura Art Show 2006" / Bunkamura Gallery(東京)
2007年 "黒川紀章キーワードライヴ" / 国立新美術館(東京)
2007年 "東京画 -ささやかなワタシのニチジョウのフーケイ-" / トーキョーワンダーサイト渋谷(東京)
2007年 "ART in DOJIMA OSAKA 2007" / 堂島ホテル(大阪)
2008年 "Esquire cafe '08/ss アートとお茶しませんか?" / 表参道茶寮表参道ヒルズ店(東京)


受賞歴等
2002年 トーキョーワンダーウォール公募2002 大賞
2004年 前橋アートコンペライブ2004 黒川雅之/審査員特別賞
2005年 第20回ホルベイン・スカラシップ奨学生