2008.05.17 [土] - 2008.06.08 [日]
(月曜定休)
淺井君にたまに会う機会があると、彼は決まって最近参加した展覧会やそこで制作した作品の話を、写真を見せながら聞かせてくれる。特別、話術に長けているというわけではないが、あまりに楽しそうに話すので、その場に行けなかったことを後悔することも多々あるほど。自作についての話だから自慢話に聞こえてもおかしくないが、不思議とイヤミな感じはしたことがなく、それが何故なのかよくよく考えてみたら、彼が自分の作品について他人事のように話すからなのであった。「ここで狼(の絵)が突然やって来て」とか、「真ん中の顔(の絵)が海を見ているんですよ」なんて感じで。

淺井君はいつでも絵を描いている。四方山話をしている時でも、手だけは別の生き物みたいにドローイングを続ける。それは義務のように自分に課してやっているというよりは、いつのまにか自然に始まっているという感じに近い。きっと日々のドローイングだけでなく、作品を作るときも同じなのだろう。制作に先立ち作品コンセプトをたてる作家がいるが、淺井君はそんなタイプではない。だから、なんでこれを作ろうと思ったのかなんて野暮な質問をしたところで、こちらが納得し満足する言葉は用意されてない。その必要もないのは彼の作品の前に立てば分かる。彼が作り出すものは、衒いやけれんみのない、もっと直接的なものなのだから。

淺井君の作品の直接性は何処から来るのだろう。そんなことを思いながら以前彼がマスキング・プラントを壁に描く姿を後ろから眺めたことがある。驚いたのは、彼の描く手の運びに迷いが全く感じられなかったこと。何かに操られているかのようにマジックで植物や生き物を描き続けていく。その様子から、淺井君は描いているのではなく、描かせられているのかもしれないと、フと思った。彼に作品を描かせているのは、その場所を構成している空間そのものなのではないかと。そう思うと、彼の作品の直接性の謎が少し解けた気がした。そして、自作についてあの他人事の様に話すわけも。

淺井君はこれからもっともっと巨大に成長していく作家だと思う。日本だけでなく世界中のさまざまな場が彼を呼びよせ、その空間と共同作業をしながら観る者に直接響く作品を次々と生み出していくに違いない。そしていつか休むことを知らない彼の手が生み出す植物や動物は、森を形成するほどになるだろう。その森の中で「制作中」と書かれたつなぎを着て、嬉しそうに描き続ける淺井君の後姿を想像して胸が躍った。

Art Center Ongoing
代表 小川希


■■■
5月17日(土) 18:00~
オープニングパーティー
シークレットゲストあり

■■■
5月24日(土) 19:00~
トークイベント
ゲスト:藤浩志(現代美術作家)

■■■
5月31日(土) 19:00~
-GO FOR FUTURE-
ゲスト:遠藤一郎(未来美術家)、他

■■■
6月8日(日) 18:00~
クロージングイベント
淺井裕介によるライブペインティング

asai1.jpg

asai2.jpg

asai3.jpg



アーティスト・インタビュー
奏でるように、描いてゆく
淺井裕介
聞き手=小川希


■マスキング・プラントとは?

―― 淺井君は、マスキングテープを貼った地の上に植物等の絵を展開させていく「マスキング・プラント」というシリーズを長く続けていますね。

淺井 はい。2003年から始めたので4、5年になります。ただ、欲求解消の延長線上で制作してきたところがあるので、2006年にデジカメを買う以前の作品は「写るんです」みたいなので撮ったものが若干ある以外、ほとんど記録もないんです(笑)。

―― 植物というモチーフには何か特別なこだわりがあるのですか?

淺井 最近はだいぶ意識的に植物を観るようになりましたが、もともと僕は何か描きたいものがあって絵を描くというよりは、「描く」という行為そのものを一番の制作の目的としてきました。植物には反復や増殖を続け、止まっているように見えて実は常にゆっくりと動き続けているという、僕の思う描く行為に似た性格があるので、モチーフとして自然と行き当たったような感じがあります。その前からいろいろなドローイングを描いて発表したりはしていたのですが、それではなかなか他者には伝わらないところがあった。けれども、「マスキング・プラント」を描き始めてからは、他者に伝えるということに対してより意識的になりました。

―― それはどうして?

淺井 「マスキング・プラント」の制作は、必然的にどうしても人前で作業することになるんですね。はじめのうちは周囲の状況など考えもせずに自然と体が動いてしまっているような感じだったんですけれど、後追いでいろんなことに気が付いていって。(公共の場の)壁等に直接描いていると誤解されて注意されたり怒られたりすることもよくありましたが、そういう場合は「剥がれますよ」とか「もうちょっと描いたら剥がして持って帰るので、なんとか描かせてもらえないか」みたいなことを言って、できるだけ相手の不安を和らげるための交渉をする。そういう経験を重ねていくうちに、だんだん自分のやっていることがわかってきたような気がします。

―― 「マスキング・プラント」は絵としてだけでなく、ライブペインティングというかパフォーマンスも作品の重要な一部としてあるわけですか?

淺井 そうですね。僕がこの作品を今まで続けてきた理由には、たぶん描いている姿を観てもらうことのできるひとつの手段だという部分があると思います。ただ、実際に観てもらうとわかるのですが、作業としてはすごく地味(笑)。着実に変化はしていくのですが、1時間も2時間もずっと観ていられるような作業ではないんですよね。だけど、例えば制作現場がカフェだったりする場合は、店員の人たちは嫌でも観ることになるので、そういう人たちがいる場合はそういう人たちのために描くということもけっこうあります。美術館で制作した時(「根っこのカクレンボ Masking Art Project in YOKOHAMA MUSEUM OF ART」2007年8月17日―12月25日、横浜美術館内壁面各所)も、監視員の女の人たちが一番楽しんでくれたんじゃないかな(笑)。

―― キャンバスの上に描く絵画であれば、全体像の構図やバランスといった問題があるけれども、無限に増殖するマスキング・プラントの場合は、きっと全体を完全に想定しながらは描いていないですよね?

淺井 そうですね。

―― それでも一応目指すべき方向というか全体のビジョンは持って描き始めるのですか?

淺井 まったく何も考えてないというわけではなく、その場その場で僕自身がこう行くしかないと考える線を引いているつもりです。椅子とか机とか、すでにその周囲にある状況の配置に合わせて形をだいたい見ておいて、あとは肉体的な疲れ加減でそれが変化してくるという感じですね。

―― けっこう細部が細かい部分もありますが、離れたり近づいたりして全体を見ながら作っていくのですか?

淺井 いや、例外を除けば僕自身はそういうふうに全体のバランスを考えすぎないようにしたいということをけっこう意識していて。描いている過程で必ず最初に考えていた形から裏切られていく瞬間があるのですが、そこで引いて見てしまうと「今度はあっちに行くんだな」ということがわかってきちゃう。そうではなく、引かずに「あれ?」と思いながらも動いていった結果=その場所に合ったマスキング・プラントということになるのではないかと思っています。


■始まりも終わりもなく

―― 淺井君はつねに何かを描いているというイメージがあるけれども、365日、絵を描かない日はない?

淺井 いや、ボーッと一日じゅうテレビ見ちゃった、みたいな日もけっこうありますよ(笑)。一時期は本当にずっと描いていましたけど、「マスキング・プラント」やアートプロジェクト系の制作を始めてから逆にだいぶ落ち着いたんじゃないかな。この制作が始まっちゃうと連日の作業になるから、体力を温存しておかないとという気持ちが出てきました。

―― やっぱり体力が必要ですか。

淺井 自分の肩より上に腕を上げて壁にへばりついて描くので、最初の三日ぐらいは筋肉痛ですよね。展覧会に呼ばれるようになったりしてからは、意識を分散させずにそこに集中したいという気持ちがあるので、むしろ(描くことを)我慢するようになりました。

―― それで一気に会場でその力を爆発させる?

淺井 そうです。日々の中でどうしてもはみ出ちゃうところはありますけど。

―― 淺井君の中には、描くという強い欲求があるのですか?

淺井 なんだかわかならいけど、「始まっちゃってる」んだなということだけはわかっているんですよね(笑)。すでに始まっちゃっているので、それをやめるかやめないかという選択肢があるだけ。

―― 淺井君の作品というと「マスキング・プラント」が注目されるけれども、それ以外の手法にも興味はありますか?

淺井 ありますね。僕としては「マスキング・プラント」でも特殊なことをやっているつもりはなくて、始まりも終わりもないという意味ではドローイング等と同じ作り方をしているんです。

―― キャンバスに描くということに対しては?

淺井 「始まっちゃってる」というのは気持ちの問題であって、別にキャンバスでも描くことはできるんですけれども、僕が今キャンバスに描き始めると収拾がつかなくなってしまうと思うんですよね。キャンバスは移動できるものだし、すでに自分の部屋が埋め尽くされている状態なので、その大きさとかにも恐れをなしているところがあって(笑)。単純に広いアトリエが借りられたらキャンバスにも描きたいんですけれども。

―― 部屋が何で埋め尽くされているんですか?

淺井 (作品のマスキングテープを丸めた)種とか、膨大な量のマスキングテープの芯とか、ドローイングですね。

―― 芯をとってあるんだ(笑)。

淺井 なんか捨てられないんですよね。完璧に全部とってあるわけじゃないんだけれど、描き終えた時に30個ぐらいの芯の束を見ると、まあ……とっておこうかなという気になるんです。あれを作品化できないかといつも考えているんですけれども、どうしようもないようなものしかできないんですよ(笑)。


■どうにかして描き続けたい

―― 淺井君が描くモチベーションとしては、単純に「自然に魅せられている」とかそういうことではないのですよね?

淺井 僕は東京生まれで横浜育ちの都会っ子なので、残念ながら自然とか森とかを知らない。そのことが逆にコンプレックスなんです。僕が知っている植物といえば、せいぜい大きな神社にあるものぐらいで、知らないからこそ知りたいという欲求はあるけれど、同時に怖いという気持ちもある。だから僕の場合は「自然に魅せられて」というよりは、草とか苔とかの配列や現れ方、並び方に興味があって、よくわからないままに自分が絵を描いちゃっている中で、いろんなつながりが生まれているんじゃないかと思います。「マスキング・プラント」にしても、描き終えたものを丸めて「種」にしたり、ノートに貼って「標本」にしたりしているのは、テープの芯が捨てられないのと同様、「これを捨てる手はないよな」という判断をした結果なわけですが、その判断は自分一人では決めていないような感じがある。だから、自然を解き明かそうという意識はないんだけれども、そこから学べるものはすごいあるんだろうなと思います。

―― アジアやアフリカ的な雰囲気もすごい感じるのだけれども。

淺井 土っぽい感じですよね。僕も写真集で「××族の入れ墨」なんていうのを見たりすると、ちょっと他人には思えない瞬間はありますね(笑)。なんなんですかね?

―― 淺井君が都会っ子だということは知っているんだけれども、どこかの原住民が描いたような印象があって(笑)。

淺井 もしかしたら、都会でも自然に魅せられることは可能なのではないかという実験をしているのかもしれないですね。ミクロなところを見ることによって森と同じような仕組みを解き明かすというか。絵を描いているから解き明かしたいのか、解き明かす手段として絵を描いているのかというのはどっちが先かわからないけれど、ミノムシとかクモの巣なんかを見ていると、もうとんでもなくてたまらなくなる(笑)。たぶん彼らは彼ら自身だけであるのではなく、何かつながりがあって存在しているんだろうということを感じるんですけれど、その流れのようなものが自分にもあれば、ずっと絵を描いていられるのではないかと思うんです。やっぱりどうにかして描き続けたいという思いがあって、手が止まってしまうことに対してものすごい恐れているところがある。僕はコンセプトありきで作品を作るようなタイプじゃないので、手が止まること=作品が作れなくなるということだと思う。手が勝手に動いちゃうなどというと怪しく思われがちなんですけど、もっと単純に、音楽で気持ちのいいリズムを奏でていくように楽しく描き続けられたらと願っています。

(2008年3月17日、Art Center Ongoingにて収録)





淺井裕介 Yusuke Asai
作家ブログ : http://d.hatena.ne.jp/asaiyusuke/


略歴 

1981年 東京生まれ。絵描き。

日々ドローイングを続ける傍ら、さまざまなアートプロジェクトに参加、テープとマジック、土と水、石ころとはっぱ、ロープに埃、身の回りのものを用いさまざまな形で、その場所でやるべきこと、やれることを探し出して絵を描いていく。最近ではインドネシアで行われた「Kita!!」展において現地で採取した 4種類の土を使い縦3m×横30m+床(90㎡)の泥の壁画を完成させ話題となる。また自身の作品の中でミュージシャン、ダンサーを呼ぶイベントや、建築家との壁画プロジェクト、子供とのワークショップなど、さまざまなジャンルで活動中。


主な個展
2001年8月 "ドローイング"/ 西瓜糖(東京)
2004年8月 "ここ数日とここ数年"/ Bankart1929馬車道スタジオ(横浜)
2005年12月 "大きい本を作る 北仲OPEN!2005"/ Polonium(横浜)
2006年5月 "MaskingPlant in Kanda"/ 山房ビル 階段室(東京)
2006年9月 "おしまいだから描いている"/ Polonium(横浜)
2007年2月 "刺繍のワッペン"/ とたんギャラリー(東京)
2007年6月 "植物のじかん"/ メディアセブン(埼玉)
2007年8-12月 "根っ子のカクレンボ"/ 横浜美術館(横浜)

主なグループ展、プロジェクトなど
2006年7月 "三日坊主の長い三日目 北仲OPEN!!2006"/ Polonium(横浜)
2006年11月 "直島風呂屋劇場"/ 旧三菱マテリアル社員浴場(香川/直島)
2006年11月 "TAP2006/取手"/ 旧終末処理場ほか、取手市内各所(茨城)
2006年12月 "通りと広場のクリスマス"/ ギャラリーアートリエ(博多)
2007年2月 "花屋根・ランドマークプロジェクト2"/ BankART桜荘(横浜)
2007年4月 "旧中工場アートプロジェクト"/ 広島市 吉島地区各所(広島)
2007年4月 "海の中道フラワーピクニック"/ 国立海浜公園(福岡)
2007年7月 "SA・KURA・JIMA プロジェクト2007"/ 旧旅館・山下家(鹿児島)
2008年1月 "食と現代美術4「淺井裕介×FAMBLY」"/ 横濱のれん街(横浜)
2008年4月 "KITA!! Japanese Artists Meet Indonesia アジアへ発信!日本の現代美術"(インドネシア)