2008.03.22 [土] - 2008.04.13 [日]
(会期中、金・土・日のみオープン)
多田さんが描く絵画はポジティブな力で充ちている。画面の中に現代美術によく見られるようなドロドロとした暗さや負のイメージを見つけようとしたところで、そうした努力は意味のないものだとすぐに気付かされる。彼女の絵画空間は、悶絶するような可愛いキャラクターでいっぱいで、そこにステレオタイプの負の要素が入る余地はない。

現代作家を取扱う美術館やギャラリーで目にするのが、難解で後味の悪い作品ばかりなのは何故なのだろう。そうした作品の方が、企画する側や評論家にとってみれば、問題提起がしやすく扱いやすいのだろうけれど、見る側にしてみれば、わざわざ忙しい時間を割いて個人的な悩みを見せつけられるのは正直苦痛だ。もちろん個人的であれ社会的であれ、なんらかの問題を提起する作品は必要だし美術が担う大きな一要素でもある。けれど、そればかりでは息が詰まる。「芸術は自由に接すればいいのです」というこれまた紋切り型のセリフがあるけれど、問題が特定された作品には範囲の決まった自由しか残されてはいない。

多田さんの作品を構成する要素を「可愛い」と漢字で書いたのは、カタカナの「カワイイ」とは違ったイメージの広がりがあるから。愛することを可能にするキャラクターは、相手を特定せずに作品世界をぐっと身近にさせてくれる。大人から子どもまで、愛は間口が広いのである。愛くるしいキャラクターに手招きされたその後は、見る側は作品の中で勝手に遊べばよい。彼女の作品の中では遊ぶ範囲は定められていないのだから。キャラクター同士の関係性を探るのも良し、配色の心地よさに浸るのも良し、画面を満たす可愛さにただただウットリするのだってもちろん良し。

少し考えればわかることだが、昨今流行りの個人的な問題をウジウジと描くことよりも、愛に満ちた世界を描き続けることのほうが実はよほど難しい。多田さんは、可愛さのコンパスを手にしてそんな困難な道を笑いながら歩いている。

Art Center Ongoing
代表 小川希



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3月22日(土) 18:00~
オープニングパーティー


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4月6日(日) 18:00~
アーティストトーク


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イベント〝朗読にドローイングの会〟
3月23日(日) 18:00~
スペシャルゲスト:川上未映子先生
3月30日(日) 18:00~
スペシャルゲスト:戊井昭人先生
4月13日(日) 17:00~
スペシャルゲスト:いしいしんじ先生


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クズモ(下平晃道&多田玲子)のライブドローイング!
4月5日(土) 17:00~
ただ単に夫婦2人でゆるく気楽に絵を描きます。ですのでみなさまも気楽にまわりで見てたり話かけたりしてください。(※作家談)
クズモホームページ http://kiiiiiii.com/quzmo/
下平晃道ホームページ http://www.murgraph.com/

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アーティスト・インタビュー
天衣無縫の物語
多田玲子
聞き手=小川希


■あらすじから広がる世界

―― 大雑把に分けると絵を描く人には、まずコンセプトを入念に固めてから描き出す人と描きながら世界を広げてゆく人という2つのタイプがあるかと思うのですが、多田さんの場合はどちらのタイプに近いですか?

多田 私の場合はコンセプトを設けるというよりは、基本的にすぐ自由になったり脱線し過ぎちゃってまとまりのないものを作ってしまいそうになるので、たとえば今回であれば「ボールペンで3色」とか、自分で制度的な枠組みみたいなものを設けたりする。内容については何も考えてません。

―― でもなんだか多田さんの絵にはそれぞれ物語のようなものがあるように感じるし、それが面白いなと思っていたのですが。

多田 私はすごい物語が好きなんです。さらに言えば、物語を全部読むのは大変だから「あらすじ」を読むのがすごく好き(笑)。本ならば裏表紙に書かれている「主人公の××が異国の地に逃れ、そこで出会った××となんと××を手に入れて……。珠玉の名作!」みたいな文章とか、情報誌の映画レビューなどを読んで、「うわー!これ本当に面白いんじゃない!?」みたいな想像をするのが本当に好きで。今回の絵や、にじ画廊での展示のために考えた『アイスクリームの百物語』なんかを描く時にも参考にした私のアイデアノートがあるんだけど、それには小学校の頃から『ぴあ』と『シティロード』と『テレビガイド』の映画のあらすじをスクラップして貼ってある。あと、『世にも奇妙な物語』がすごく好きだったので、そのあらすじも切り貼りしてあります。合計で7冊ぐらいあって。そういうのを見て、「こういう話おもしろいな」とか思ったりしながら絵を描くんですよね。「小人が出てきて……」とか書いてあると、「あ、小人いいね!」とかいって小人の絵を描いたり。だから、あらすじ的な雰囲気のある小さい絵になっているような気がします。

―― 本や映画の本編そのものにはあまり興味がないのですか?

多田 もちろん物語を全部読むのも映画の本編を観るのも大好きだし、それはそれで別の人生をドップリ生きるようなことだからまた違う感動があるんだけれども、あらすじというのはなんだか瞬発力があっていいじゃないですか。

―― 絵は観る人にとってあらすじ的な要素になればいいなという感じ?

多田 そうですね。たとえば雑誌の映画レビューであれば、あらすじの横にその映画のちょっと衝撃的なシーンの写真があったりする。そういう「背景がある中で何かをしている途中」みたいな絵になればいいかな。



■3色ボールペンの理由

―― 多田さんの絵を観ていると本当にワクワクするし、絵の中のモチーフの関係性を知りたくなります。

多田 私も描きながら「コイツとコイツはライバルで……」とか考えていたりして、話すと長いよ、みたいな(笑)、自分の中ではすんなり行っている部分があって、すんなり描いてますということだけは言えますね。観た人から「これとこれがなんでここに登場してるの?」みたいな突っ込みを入れられる部分もあると思うんだけど、「いやあ、それには深い理由があってね、実はあいつらは昔……」みたいな(笑)、物語っぽい部分もあるし、連想ゲームが好きだから連想ゲームで描いていく部分もある。たとえば、ちょっと帽子を描いてみて、「帽子と言ったら象を飲んだうわばみに似てるよね」「象を飲んだうわばみよりはツチノコのほうが好きかな」「蛇なんか所詮靴下、靴下が壺から出てきたら蛇じゃん」……とか、「モグラの穴ってモグラ叩きみたいでいいよな」「モグラの穴ってドーナツの穴みたいなもんだよね」……とか(笑)。

―― 描きながら連想が広がっていく感じなんですね。絵の構図とかバランスについてはどう考えていますか?

多田 それは適当。もし「この配置はダサかったな」という部分があったら、消したり切ったり人に見せなかったりする。色も何も考えてない。

―― 色はすごくカラフルで自由な感じがしますよね。

多田 色のことはよく「どうしてこの色合いにしたんですか?」とか訊かれるけれども、本当にわからないんですよね。自分の服なんかは黒も多いし地味なんだけど、いろんな色が付いているものを見ると元気が出る。だから、そういうのっていいよなと思いながらその日その時に自分が好きな色で描いているのかもしれません。

―― 今回3色ボールペンにこだわった理由というのは何かあるのですか?

多田 私は白地に赤というイメージの夢を見たりするんだけど、大学時代にそれが大好きで、なんでも白に赤で作りたいという時代があったんです。大学生だし、おまけに彫刻科だったし、いろいろやらなくちゃいかんのに、白地に赤の絵しか描いてない!みたいな感じだったんだけれども(笑)、それは一回封印して、一昨年ぐらいに改めて3色ボールペンで描くことを始めました。なぜかと言うと、齋藤孝という『声に出して読みたい日本語』とか書いてるオッサンが、3色ボールペンで手帖を付けているとすごい能率が上がりますとか言っていて、赤が最も大事な仕事、青はそれなりに大事な仕事、緑は自分の趣味などについて書く、要するに、重要な仕事/仕事/趣味で3色を使い分けて手帖を付けろということを本に書いていて。齋藤孝は別に全然好きでも嫌いでもないんだけど、自分の能率の悪さに腹が立っていたのでそれを立ち読みして、「これだ!」みたいな感じになって早速やってみることにしたんです。しかも「齋藤孝式ボールペン」を自分にもダンナにも買って。で、速攻挫折(笑)。もったいないから絵でも描こうと思って描き始めたら、意外と3色でもイケるなということに気付いた。やっぱり私の中では、ブルーと緑の線はそんなに好ましいわけじゃないので赤ばかりで描いちゃうんだけれども、それでも単色よりはブルーと緑があるほうがバリエーションが出て良いから、ブルーと緑もいてもいいなと思って。

―― いい感じのバランスになっていますよね。

多田 やっぱり赤一本じゃ虹は表現できないし、幅が出てよかったです。今ではすっかり3色ボールペンと仲良くなったから、次はもっと色を増やしてもできるのかなと思っています。



■子どものトラウマを目指して

多田 映画の本編とあらすじではドキドキ感が違うというさっきの話と一緒で、私は好きな油絵とかももちろん沢山あって、油絵のすごい作品は「うわ~!」と、霊感的で、まるで人間の一生のようなド感動を呼ぶけど、ちょこちょことボールペンで描かれたような落書きにも「この落書き最高!」というトキメキがあって、そういうほうが自分には合っているかなと思う。ドーンと油絵で描いているのにつまんないものを出している人もいっぱいいるし、私は本当にそういうのは「バッカじゃないの」「お前の一生なんか見たくないよ」「話は手短にお願い!」と思うから(笑)。

―― ボールペンの他に素材としてフェルトは今も使っているんですか?

多田 今はプランはないけど、フェルトで作品を作るのはすごく好きです。

―― フェルトの作品はまた、ものすごく可愛いですよね。

多田 フェルトという素材は、憎いほどの可愛さと楽しさの凝縮だと思うので、その力を借りて可愛くて楽しいものを演出しています。

―― 多田さんの作品にはあまり暗い雰囲気のものはないように思うのですが、制作する上で、可愛さや楽しさというのは重要視しているのですか?

多田 私は大学生ぐらいまではわりと根暗というか、けっこうウェットなところがあったから、女子女子したしみったれた絵を描いたりしていたんです。中島みゆきとか松任谷由実の歌の湿っぽい部分みたいな、恋愛を盛り込んだようなテーマで(笑)。ソフィ・カルとか好きだったんです。それがもう本当に嫌になっちゃって、「バカじゃなかろか」と思った。そういう女って美大をふと見渡すとすごくいっぱいいるでしょ。それで、これは私の仕事じゃない、私の長所はもっと愉快にやってる感じかな、と思い直して作品を作るようになりました。だから、ただ単に「楽し~い!」というのではないけれども、「悩みはあるけどがんばってまーす(ヤケクソ)」みたいな感じが全作品にあるんじゃないかな。

―― 絵を観ていると、狙った可愛さや楽しさじゃなくて、本当に楽しいんだろうなという感じが伝わってきます。

多田 私は今までに「超楽しい!」とか「これ超可愛い!」と感動する経験をたくさんしてきたから、自分は本当に楽しいとか可愛いということについてけっこう知っていると思う。だから、そんじょそこらの可愛いものを作っている奴のひよわで流されそうな可愛い感じなんかには絶対負けない自信がある。私は「可愛さの裁判官」だと思ってるから(笑)。雑貨屋なんかを見ていても、「それぐらいの可愛さで満足しているのか!?」と喝を入れたくなるし、楽しさにしても、「本当の楽しさの裏にはすごい我慢度が必要なんだよ!」とか思う。そういうものに向かっている生活がベースにあるので、たぶん絵にもそれが出るんじゃないでしょうか。

―― なんだか異国の物語のような情緒があるんですよね。

多田 それはすごくうれしいです。こんなに簡単に飛行機で外国に行ける時代だというのに、いまだに私には無闇なほどの異国への憧れが否めないところがあるんです。でも今はインターネットで情報も簡単に入っちゃうし、チェコアニメみたいな絵を描く人なんかもすごくいっぱいいるから、異国かぶれ過ぎるというのも問題だと思っている。だけど、遠くの国で勝手に発展したような、何の影響を受けたらこんな絵になるんだろう?みたいな異国の可愛い動物の絵とかは本当に好きですね。

―― 子どもとのワークショップをされたりもしていますが、制作の際に子どもという存在は意識していますか?

多田 私には子どもの頃に見て忘れられないものというのがけっこうあるから、「子どもが気に入りますように」とは思わないけれども、バンドの演奏も含めて制作したものはすべて「子どものトラウマになりますように」といつも思ってる。その子たちが二十歳ぐらいになって何か絵を描けと言われた時に思わず出てきちゃうようなイメージの印象を残せたらいいな。

(2008年3月5日、Art Center Ongoingにて収録)




多田 玲子/レイキン・ザ・キーー Reiko Tada / lakin' the Kiiiiiii
作家ホームページ : http://tadareiko.com/



略歴 
1976年 福岡県生まれ。現在は東京都調布市在住
2001年 多摩美術大学美術学部彫刻科卒業
2002年5月に幼なじみの田山雅楽子とアートとパフォーマンスとバンドのユニット「Kiiiiiii」を結成。ドラム、作詞作曲、アートワーク全般を担当。KiiiiiiiのDVD「Gold & Silver」、アルバム「AL & BUM」のアートワークや、Tシャツ、バッジなどグッズ全般も手がけている。鮮やかでキュートな色使いで描くドローイングと、通好みな連想ゲーム風線画や動物画が得意。フェルトによる制作やぬいぐるみ、きぐるみを用いた美術作品の制作も行う。
他ミュージシャン(スーパーバタードッグ、THE BOOM、コトリンゴ、アルファ等)のグッズや、音楽フェス(RAW LIFE、apBank fes等)のオフィシャルグッズ、アパレル、雑誌にイラストを提供。現在は雑誌CUTiEでコラムと星占いのイラストを連載中。



展示略歴 
2003年7月 "リリー・リー"/ 拝島HOME BASE(東京)
2004年3月 水戸芸術館内ゆうかりカフェで4日間ライブペインティング
2004年6月 京都造形大学の田名網敬一・伊藤桂司ゼミにて「一日Kiiiiiii大学」を開講し、授業を行う
2004年12月 "INDEX"/ HIROMI YOSHII GALLERY(東京), ART ZONE(京都)
2005年5月 "NO WALL BETWEEN ART3"/ エクスレルム(東京)
2005年8月 "サービス・ゆかい・輪っか"/ SIGN GALLERY(東京)参加
2005年8月 VOLVOのワールドコマーシャルフィルムに出演、第52回カンヌ国際広告賞受賞
2005年10月 手帳の使い方を披露する"MY MOLESKIN" TOWER BOOKS(東京/渋谷)/
      恵文社一乗寺店(京都)/ブックファースト新宿ルミネ1店(東京)の3カ所に巡回
2006年6月 "tenants"/ graf media gm(大阪)
2006年1月 "SEE-DJ" apelle(東京)参加
2006年4月 "百花撩乱" BOICE PLANNING(東京)
2006年8月 "Painted Kiiiiiii on the beach"/ アジアンバウンドブック(東京)
2006年11月 "パラダイスのドローイング"/ ベイクォーター(横浜)
2006年12月 "クリエーターからの贈り物"/ ギャラリー ル・ベイン(東京)
2007年3月 "Here comes Kiiiiiii"/ Secret robot project(アメリカ/ニューヨーク)
2007年7月 "Everyday is summer holiday !"/ graf media gm(Kiiiiiii名義での個展/大阪)
2007年11月 "Everyday is summer holiday2"/ FAT FESTIVAL 2008(タイ・バンコク)
2008年3月 個展"ABCDの素晴らしき世界~アイスクリームの百物語"/ にじ画廊(東京)