2008.02.23 [土] - 2008.03.16 [日]
(会期中、金・土・日のみオープン)
東野さんは一見すると物静かなイメージの男である。礼儀正しく、そしてなにより腰が低い。無口で正直愛想があるほうではないが、少し接してみれば「いい人」と誰しもが感じる、そんな人物である。ただ人が誰かのことを「いい人」と評する際、その言葉の裏には、「特筆することがない普通の(退屈な)ヤツ」という負の意味が隠れていたりすることがあるから恐ろしい。そんな「いい人」東野さんの作品を、以前ポートフォリオで拝見した際、本当にこれらを彼が作ってきたのかと驚かされた記憶がある。こんな「いい人」そうなヤツが、こんな「普通じゃない」視点で世界を眺めているのか、と。

東野さんの作品は私たちに、何気なく眺めているこの日常を、普段とは別の角度から覗いてみることを提案する。その新しい切り口から眺める景色は、「劇的に」とは言わないまでも、「地味」ながら確実に変わって見える。特筆すべきは、提案されるそれらの視点には、必ずと言っていいほど「笑い」が伴っているということ。鑑賞者は笑いながら、既に知りつくしていると思っていた日常を、文字通り再発見するのである。彼の腰の低さから繰り出される再発見のための視点は、力石徹のアッパーカットのように切り口が鋭くじわじわと効いてくる。そして時にその「笑い」は「恐怖」に変わることもある。普段眺めている景色がそれまでと違うものに見えた瞬間、人は世界の、そして自分自身の存在の不確かさに気付かされるからである。

この先も、「いい人」東野さんはその低姿勢から、「普通じゃない」パンチを私たちにお見舞いすべく、世の中の「笑える」ものを貪欲に探し続けていってくれるに違いない。彼はそこで再び教えてくれるだろう。世界は、まだまだ「笑い」そして「恐怖」で満ちあふれていると。

Art Center Ongoing
代表 小川希


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2月23日(土) 18:00~
オープニングパーティー

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3月1日(土) 18:00~
オープン記念シンポジウム 第2弾
ゲスト:住友文彦氏(AIT)

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3月8日(土)
東野哲史展・緊急特別企画
天久聖一先生がOngoingにやってきます!

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3月16日(日) 15:00~
クロージングイベント?

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アーティスト・インタビュー
「こんなんできました」という美学
東野哲史
聞き手=小川希


■美術と笑い

―― まず、自分の最近の作品について、何か意識している傾向はありますか?
東野 僕の制作はその時その時の思いつきでやってきた感じなのですが、最近はだんだんスタイルが固まってきちゃっているような気がしなくもなくて、それがあんまり良くないなと思っています。

―― 具体的に言うと、どんなところが?

東野 ちょっと自己模倣になりつつあるような部分が出てきて、まずいなあと。

―― 常に変わり続けたいという欲望があるんですね。

東野 そうかもしれない。ひとつのことをずっと続けていれば注目もされやすいだろうし、それは作り手が本来あるべき姿なのかもしれないけど、自分としてはやっぱりその時その時にやれることの積み重ねで行きたいので。

―― そういう時事的な感覚のアンテナを張る手段として、僕が勝手に東野さんに抱いているイメージとして「笑い」という側面があるんだけれども、そこは本人としては特に意識している部分ではありませんか?

東野 意識していないと言ったら嘘になるかな。でも、自分の中で笑う時にはそんなに馬鹿笑いするようなことはなく、「クスッ」みたいなすごく小さな笑いであることが多くて、そういうことの蓄積で作品もやっていると言えばやっていると思う。だけど最近は、自分の中では笑いにつながると思っていても、世の中的にはたぶん笑えないし好きにもなれないという方向に傾きつつあるかもしれない。

―― 常に意識して面白いことを探求しているというわけではないのですね。

東野 いや、自分の中では面白いと思うことをやっているんだけれども、それは爆笑を求めるということとは違うというか。

―― 東野さんは、「笑いがアートに変わる瞬間」に可能性を認めているのでしょうか?

東野 「笑いが」というよりは、「ちょっと可笑しい」という次元というか、どうでもいいこととか爆笑には至らないようなくだらないことが「何か」であってほしいんですよね。

―― アートのひとつの力として、物事を普通とは異なる視点から捉える力を提供するということがあると思うのですが、東野さんが重要視している小さな笑いというのも、そういう力のある視点と言えそうですね。

東野 そうですね。僕が今まで美術を通じて影響を受けたのもそういう力であったりするわけですが、それによってちょっと世界が広がる感じがあれば、別に美術である必要はないんじゃないかとも思っています。だけど、自分がやろうとしてきたものが何になったかを振り返ってみると、やっぱり美術になっていたということが言えるんですよね。

―― 松本人志しかり、「現代美術より今のお笑いのほうがよっぽどアートだ」みたいなことがよく言われますが、東野さんはたとえば美術とお笑いの違いというか、両者を分ける線というのは意識していますか?

東野 特にしていません。僕は絵画好きだったわけでもないし、「美術大好き」という感覚を持って育ったわけでも全然ないので、なぜ美術をやっているのか?と訊かれても正直よくわかんない(笑)。だけど自分の意識としては、美術というのはすごい狭い世界だからこそ、そういう自分の感覚を持ち込めればと思っています。

―― 美術がお笑いと違う点は、それが提供する視点が、単純に笑って済ませられる視点か、広く当然だと信じられている社会的前提を疑わせるような、笑うだけでは済まないちょっと怖いような鋭い視点か、というところにあるのではないかと思うのですが。

東野 そういう美術業界的な笑いの基準というのもどうなのかな?と思うんですよね。ただ笑うだけの作品が美術にあってもいいし、それを「お笑い」/「美術」とジャンル分けした瞬間につまらないことになっていく気もする。

―― 美術にこだわる必要はない、と。

東野 ないはずなんだけど……、こだわっているんだな(笑)。美術以外には僕がやっていることの受け皿はないような気がするし、それだけ美術の受け皿が大きいということなのかもしれません。



■貧乏性と積み重ね

―― 東野作品からは、いつも執拗な手作業の痕跡みたいなものが感じられます。

東野 最近は、やっぱり自分は大きいものは作れないんだということを実感しています。以前はその原因は作業場が狭いというようなスペースの問題にあるのかと思っていたけど、広いスペースがあったとしても、やっぱり大きい作品は作らないかも、と。

―― 台北のレジデンスにいた時(「台北市・横浜市アーティスト交流プログラム2006」により2007年1月~4月まで台北國際藝術村に滞在)などは、きっと広いアトリエがあったはずですよね。

東野 そうなんです。広いスペースがあったらあったで「なんか埋めないと」と思っていろいろやってみるんですけど、結局大きいものは作れませんでした。基本的に貧乏性な感じだから、大きくバンと作るということができないんです。

―― 大きな木材を使ったりするのはもったいない、みたいな?(笑)

東野 もったいないというか、怖い。大きいとやっぱり値段も高いし、こんな高価な買い物して大丈夫かな?みたいなすごいショボいところから考え始めるので……(笑)。

―― 東野作品にはなんと言うか、「小さな積み重ね」みたいなイメージがあるんですよね。

東野 それはたぶん貧乏性だからこそ、ですね。かといって別にめちゃくちゃ細かいことに器用だというわけでもないし、省エネというか、たぶん器が小ちゃいだけなんです。いろいろと考えて最終的に思いついた作品が面白くないこともあるわけですが、僕はそれを発展させずに思いつきのままやっちゃったりする。

―― 作品については、あんまり深く考えないということ?

東野 むちゃくちゃ考えるんだけれども、考えてもなんだか最初の考えから先に進まないんです。

―― 一発ギャグじゃないけど、自分で最初に作ったハードルを越えられないというのは面白いですね。

東野 というか、単に途中で投げ出しちゃってるのかもしれない(笑)。

―― だけど、思いついたことを掘り下げるのではなく広げていく可能性というのもあるし、東野さんの作品はそういう作り方をしていますよね。

東野 そうですね。自分はひとつのことを追求できる人間ではないのかな。だからダメなんだと思うんだけど……。

―― 一方で東野さんは、こうした本人のコメントが感じさせるネガティブさからは考えられない勢いで、作品ではスカッとギャグをかたちにしますよね。たとえば『FTHTTH×100』(「FTHTTH=From Tetsushi Higashino To Tetsushi Higashino」、自分から自分に宛てたブランク・メールの往復書簡による作品、2006年※)にしても、これはこれで面白いんだという強い信念に支えられて作られている感じがするし、作品自体からは「思い切ってやっちゃった」といった印象を受けることが多いんですよね。

東野 その辺に関しては、「これでイケる!」という勝手な思い込みが激しいのかもしれないです。実際は全然イケてないんだろうけど……(笑)。

―― そういう作品に対する海外での評価や反応はどういう感じでしたか?

東野 観る人の反応は特に日本と変わるところはなくて、たぶん「クスッ」とさせることはできたと思います。それが良かったのか悪かったのか……、日本と変わらなかったからこそ特に何の進展もなかったとも言えるので……(笑)。



■おかんのアート

―― 東野さんは自らを「非生産的生産活動家」と称していますが、東野作品には一貫して「意味がないこと」というキーワードが挙げられるのでしょうか?

東野 そういうわけでもありませんよね。

―― 作品の題名にもいつもとんちが効いていますからね。構想段階では、言葉によってイメージを膨らませていくのですか?

東野 言葉でも絵でも、あんまりアイデアのスケッチはしません。メモはしますけど、それも基本的に作品を作るために何が必要かといった具体的な「買い物メモ」なんです。

―― そこも省エネなんですね(笑)。

東野 クロッキー帳を新調した時なんかは「やるぞ」ってはじめだけがんばったりするし、大学の頃は小さいメモ帳を常に持ち歩いていろいろ書いていた気もするんだけど、なんかそれもずいぶん前にぱったりやめちゃいました。「覚え書き」とか言っても、別にわざわざ書いて覚えておくようなことは、何を買うかというようなことだけだったりするので(笑)。

―― では、アイデアを煮詰めて作っていくというよりは、たまたま見つけた面白い発見を展開させるようなことが多い?

東野 多いと思う。「あ、いいじゃん」みたいなことばっかりですよ。だから別になんでもないんです(笑)。
―――「美術をナメるな」と怒られたことなんかはありますか?

東野 それはまだないですね。

―― 東野作品は、次はどんなふうに笑わせてくれるんだろう?という期待を観る人に常に抱かせますよね。「あいつの作品は笑える」みたいな印象を持たれてしまったら、なかなか辛いだろうと思うのですが。

東野 僕の作品は自分の中で「クスッ」というレベルなので、そんなに笑えないと思う。でもそういうのもいいんじゃないですか、というか、そこを救ってください、みたいな人任せな思いがあるのかな。

―― だけど狙っているラインというのは一応あるんですよね?

東野 何かしらあるんだろうけど、それがたまたま伝わるか伝わらないかという問題があるし、なるべく伝わったほうがいいなとは思いながらも、あんまりそこを考えるのも良くないので……。

―― 東野さんが制作を続ける動機として、何かを追求したいという思いは特にないのでしょうか?

東野 ないですね。だからやっぱり向いていないんです(笑)。僕の理想は、よくおばさんが主婦業の合間に何かを作って「こんなんできました」とかやっちゃう、中途半端で何にもなっていない「おかんのアート」のあの感じに近いんですよね。でも僕はすでに頭で考えちゃってるので、その時点で「おかんのアート」には負けちゃっている。もしかしたら一生かかっても勝てないかもしれないけど、いつかああいうすごいことができたらなあと思っています。あと、自分のやっていることを学問的な視点から捉えたいと思っている節もあって、理詰めで「おかんのアート」までたどり着くことができるか、なんとか追求することができればと思っています。

(2008年1月23日、Art Center Ongoingにて収録)




東野哲史 Tetsushi Higashino

作家ホームページ : http://www.workth.net/



略歴 
1976年 滋賀県生まれ
1999年 武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業

個展 
2008年 "WKM/OO" / Art Center Ongoing(東京)
2005年 "コレクション・コレクション" / Pepper's Loft Gallery(東京)
2004年 "加減_E" / UPLINK GALLERY(東京)
2003年 "文字化けを記述する試み" / Pepper's Gallery(東京)

主なグループ展
2008年 "横濱芸術のれん街2" / 三陽(横浜)
2007年 "MIACA@LUX" / LUX(ロンドン)
2007年 "アレぢごく ~青いオープンカーに壷がはねられればいいんじゃない?~"
     /SAKURA FACTORY(東京)
2007年 "圏 Loop" / 台北國際藝術村 Taipei Artist Village(台北)
2006年 "Ongoing vol.05 ヨコハマエクトプラズム" / BankART Studio NYK(横浜)
2006年 "第9回岡本太郎記念現代芸術大賞展" / 川崎市岡本太郎美術館(川崎)
2005年 "Ongoing vol.04 よんで みて みて" / BankART Studio NYK(横浜)
2005年 "Reading Room" / BankART Studio NYK(横浜)
2004年 "INDIV EXHIBITION" / ホワイトキューブOSAKA(大阪)
2004年 "Ground ○○ [niko-tama]" / 多摩川河川敷,GALLERY eSIESTA(東京)
2003年 "キリンアートアワード2003 受賞作品展" / ヒルサイドフォーラム(東京),
     KPOキリンプラザ大阪(大阪)
2002年 "フィリップモリスアートアワード2002 ザ・ファースト・ムーヴ"
      / 東京国際フォーラム(東京)
1999年 "PARCO アーバナート展#8 FINAL" / PARCO スクエア7(東京)

主な受賞歴等
2007年 台北市・横浜市アーティスト交流プログラム2006 派遣アーティスト
2003年 キリンアートアワード2003 審査員特別奨励賞
2003年 第4回スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル 審査員賞
1999年 PARCO アーバナート#8 FINAL 優秀賞