2009.04.15 [水] - 2009.04.26 [日]
12:00-21:00 定休:月、火
 生まれ育った町に久しぶりに降り立つ機会があり、少し時間があったので小さい時分よく遊んだ公園に何年かぶりで寄ってみることにした。いろいろな思い出が沢山詰まった公園だったのだが、一歩足を踏み入れると、そこが自分の記憶と随分と違っていて驚かされた。全ての遊具がすごく小さく感じられ、その配置も思っていたのとかなり違っていた。ただ、改修工事などで実際に昔と変わってしまったのかといえばそうでもなく、コンクリートで出来たトンネル山にかけ登って公園全体を見渡してみると、ああ、確かにこんなだったなと、昔みていた風景に引き戻されたのだった。同時に、さっきまで記憶の中にあった公園はどこからやってきたのだろうと不思議に思ったりした。

 武藤さんは、他者と対話をする中で、話に出てきたその人の記憶の中に存在するある特定の場所やイメージを基に作品を作りあげていく。思い出の場所について話をして欲しいと言われれば、誰しもそんな場所を一つか二つはあげることが出来るだろうが、聞く方にしてみれば、他者の記憶であるからして、なにかしらその場所を想像するための具体的な手がかりが必要になるだろう。武藤さんの場合、話に出てきた樹木や小物にスポットライトをあて、自らの手によってそれらに形を与え、人の記憶の中に存在する場所を構築していく。

 ただし、武藤さんが生み出す作品が他者との話の中に出てきた通りの形態をとるかと言えば、それはまた違って、普通まっすぐに伸びる樹木がいびつに折れ曲がっていたり、平らなはずの水面が跳ね上がっていたり、話に出てきたイメージの一部分だけが切り取られたり、あるいは、くっついていたりするのである。どうやら、武藤さんという聞き手のフィルターを通って他者の記憶やイメージが現実に立ち現れようとする際、時空にズレが生じ、その形態に異変が起きてしまうようなのである。そして不思議なことに、その奇妙な形の作品によって、基の話の空間がより魅力的なものに変わっていく。

 考えてみると記憶とはなんと曖昧で、そしてなんと豊潤な空間なのだろうか。トンネル山に登って再発見したあの景色も徐々に過去のものとなり、いずれまた現実とは異なる、私の記憶の中でしか存在しない空間へと姿を変えていくのだろう。誰しもが持っている、その人しか知りえない、記憶の中だけに存在する場所。そんな不可知の場所へと続く扉を開く奇妙な形の鍵を、武藤さんの手は誰かの話を手がかりに生み出し続けている。

Art Center Ongoing
代表 小川希


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4月19日(日) 18:00~
サンデー・オープニングパーティー


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4月26日(日)
Pre Ongoing School
16:30~17:30 アーティストトーク
参加費:1000円(ケーキ+お茶付き)
18:00~ ワークショップ「奥の部屋」
参加費:1000円(ワンドリンク付き)
概要:
あなたの記憶の中にある部屋について、探りながら絵や小さな立体で表現していきます。引っ越ししたり、建て替えてたり、あるいは同じ部屋だったり、、、部屋にまつわるたくさんのエピソードを一緒に形にしていきましょう。
持参道具:
画材用具はこちらで用意します。
もし、昔住んでいた部屋にまつわる懐かしのもの、写真、その当時聞いていたCD等があったら、持参大歓迎。(手ぶらでもOK!!)
※アーティストトークとワークショップ両方に参加される方は、割引で1500円になります。

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アーティスト・インタビュー
だれかのどこかにゆらめく空間
武藤亜希子
聞き手=小川希

■はじまりは対話から

―― 武藤さんのこれまでの作品は人との対話が制作のきっかけとなったものが多いように思えるのですが、実際に他者との関わりあいの中で制作の動機が生まれることが多いのですか?

武藤 そうですね。出会った人と話をして、その人の記憶の中に存在する場所とかその話の中に出てくる空間とかに興味を持ったことがきっかけとなって作品を作っていくことがほとんどで、そこが私の作品独自の特徴だと思います。一番はじめは自分の記憶を扱った作品を作っていたんですけど、それは封印しました(笑)。

―― 気に入らなかったんですか?

武藤 というより生々しすぎちゃって。その頃は、自分が体験した出来事や思い出を素材として描いた記憶の中の風景の小さなドローイングを大量に作っていました。それらを別々のビニールに入れて壁に貼るという作品です。自分のことをネタにしたのはそれっきりですけど、今はワークショップなどで参加者に同じ手法で作ってもらったりしていますね。それが物語の一コマみたいになって、参加した人それぞれが自分の記憶を再発見できたりする。自分でやった時も同じような感じだったんですが、ただ、際限なくどこまでも出来上がっていき、切り口みたいなものが見えなくなってしまって。それから結構悩んで、他の人の記憶というものに興味を持ちはじめたんです。

―― 他者の話が作品の基点になっているといっても、具体的に作り上げていく作品それ自体は、必ずしもその話の忠実な再現というわけでもないんですよね。あえてちょっとずらしているような感じも受けるのですが。

武藤 そうかもしれません。今は存在しなくて実際にはもう行くことのできない場所なのに、話を聞いた時にその空間を肌で感じるような時があって、その独特な距離感みたいなものにすごく興味があるんです。ただし、話に出てきた空間そのものをインスタレーションにしたとしても、作品としてはどこかしっくりこない。過去のものを現在に持ってきた時のズレみたいなものが生まれるからかもしれません。でも私は、むしろそのズレから作品の形を探っていこうとしているんです。過去のものが今現在にちょっとだけ寄りかかっているような感じ、といったら伝わるでしょうか……。


■記憶の空間

―― 武藤さんは人と話をしている時にはいつも作品のことを意識していますか? それとも作品になるのはもっと偶然気になったような話?

武藤 なんとなく出会った話とかですかね。

―― では、人と会わない時期が長いと制作できないということもあったりするのですか? それともすでにいろいろと「話」のストックがあるとか?

武藤 そうですね。結構ストックはしてあります。人と話をしていて面白いなあと思うことは日常的にあったりしますから。それを忘れないようにしておいて、一人の時にどう作品化していこうか考える、みたいなプロセスですね。実際に制作する際は、家に一人で籠りがちです。

―― そろそろネタが尽きてきたから外に出て誰かと喋ろうかな、みたいなこともあるんですか?

武藤 ネタ切れだから人と話す、ということはないです(笑)。ただ、なんとなく自分の中でストックが少なくなってきたかなという時は、何か面白いことはないかという目で他人を見ているのかもしれない。それと私は、ストックは寝かせておくタイプで、面白い話と出会ってもすぐに作品化はしなくて、ちょっと期間を空けてから「じゃ次はこれかな」って感じで着手しています。

―― もともとは自分の記憶に興味があったわけですよね。だけどそれが徐々に他人の記憶へと移行していったというのは不思議に感じます。他人の記憶なんて、実際のところ全然わからないものではないですか?

武藤 確かに、わからないんですけどね。ただ、自分の中だけで思い出した空間だと意外と外側に開いていなくて、むしろどんどん自分の中に籠っていくような感じがあるんです。それよりも、他人と話しながら見つけた不思議な空間みたいなものにすごく興味を惹かれる。奥行きを感じるというか。現実の場所にはない、他人の中にだけ存在する場所。そういうのを見つけた瞬間がたまらないんです。


■定まらないから展開する

―― 自分の作品がどのように鑑賞者に届き、受け容れられるのが理想的ですか?

武藤 私が心がけているのは、作品をニュートラルな位置に存在させることです。話をしてくれた人がいて、鑑賞者がいて、作者としての私がいて、そのどこに作品の主体があるのかとか、どの方向を向いているのかといったことはあまり気にしません。むしろ作品が自立していて、私からも距離があり、誰か特定の人の記憶にも囚われずに鑑賞者がストーリーを自由に読み取ってそこから感情移入ができる――、その全てが成立するような感じが理想ですね。

―― 武藤さんの作品は非常によくできていて、職人的なこだわりすら感じさせられるものがあります。伝統工芸とまでは言わないまでも、物としての完成度に関してこだわりのようなものはありますか?

武藤 私は作品と自分との距離をいろいろ試してみるのが好きなんです。ある時は表面のクオリティを上げて作品として自立させ、自分から突き放す。逆に、工作的に自分の手の中であれこれ作るのも好きで、そういう時は手の仕事が見えるように布を縫ったりとかして、もう少し身近なほうに作品を近づけたりもしますね。

―― そういうことを意識的にやっているわけですか? この作品には遠くに行ってもらおうとか。

武藤 そうですね。できるだけ完成度を上げてから、さよなら!とか。そうすれば、私がいなくても一人でやっていけるから(笑)。ただ、ひとつの作品の中でもラフに描くものがあったり作り込んでみたりとか、いろいろですね。

―― いろんなものがひとつの空間に混在しているほうが気持ち良いですか?

武藤 そうですね。

―― 確かに様々なテイストが同時に混在していますよね。下手をすれば「これはグループ展ですか?」なんて言われかねないような(笑)。

武藤 いろいろな作家によって作られたそういう空間も大好きなんですよ。ひとつのやり方だけだとしっくり来ないっていうのがあって。結局のところ私は、自分とそれぞれの作品との距離を問題としているのだと思います。

―― 普通に考えたら、完成度の高い作品一本でいったほうが受け容れられやすいと思うのですが。

武藤 そうだけど、それでは面白く感じないんです。私は職人さんのようになりたいわけでもないですし。ドローイングとかペインティングにしても、私の場合はカチッとしたものとラフなものという2タイプがあるんです。

―― その使い分けはどこからやってくるのでしょうか? その時の気分とか?

武藤 なんでしょうかね……、自分の中から発生する感じでもないんですが。

―― ではやはり作品の基となった誰かの記憶が影響しているのでしょうか?

武藤 確かにそれも少しあるかもしれません。いずれにせよ、自分からだけではないんです。自分の思い描いた通りに作品を成立させる人はいっぱいいると思うけど、私の場合はそれだけではなかったりする。よく感じるのは、制作に関して自分自身は宙ぶらりんの位置にいるなということ。作品を見る側/作品の基になる話をした相手/自分自身、という間を行ったり来たりしているんです。自分を宙ぶらりんにするような感覚があるんですよね。おそらく、そこら辺でふらふら揺れている中で、一つ一つの作品の出方も変わってしまうのかもしれませんね。

―― 面白いですね。それがしかも気持ち良い感じがする。いわゆる美術教育といわれるものを大学とかで何年も受けてきた作家には、配置方法なども含めて職人さんのようにカッチリした作品を作る人が多いし、それが王道だったりします。ただそうした作品の多くは、優等生すぎるというか、もうすでにこれまでの歴史で散々やられてきたことなんじゃないかと思えてしまって、僕はあまり魅力を感じなかったりするんです。その点、武藤さんの作品にはいろんな「隙」があるように見えて面白いなと感じていたんですよね。しかも今回それをわざわざやっていたと知って、改めてすごく面白いなあと思いました。

武藤 いや、むしろ他力本願なだけかもしれません(笑)。あんまりカッチリしちゃうとなんか息苦しいというか、ちょっと隙があるぐらいのほうが、いろいろ発見がありますしね。

―― 不確定要素があっん。そのほうが最終的に面白い作品になったりしますね。不確定要素って、制作をしていく上で、いろんな意味で私にとって大切なことかもしれません。対話から始めるということも、ある意味、大きな不確定要素を含んでいる。その都度出会う出来事や対話に、自分が動かされながらの制作。作品がストーリー性を持って展開していったり、意外なものがそこから見えてきたり。作品の成立の仕方も、そのほうが自然なのではないかと思っています。

―― 面白いですね。それがしかも気持ち良い感じがする。いわゆる美術教育といわれるものを大学とかで何年も受けてきた作家には、配置方法なども含めて職人さんのようにカッチリした作品を作る人が多いし、それが王道だったりします。ただそうした作品の多くは、優等生すぎるというか、もうすでにこれまでの歴史で散々やられてきたことなんじゃないかと思えてしまって、僕はあまり魅力を感じなかったりするんです。その点、武藤さんの作品にはいろんな「隙」があるように見えて面白いなと感じていたんですよね。しかも今回それをわざわざやっていたと知って、改めてすごく面白いなあと思いました。

(2009年2月24日、Art Center Ongoingにて収録)



武藤 亜希子 Akiko Muto

略歴
1975年 千葉県生まれ
2000年 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
2002年 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程油画修了
2006年 東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程油画満期修了

個展
2004年 "底が抜けた庭"/ MUSEE F(東京)
2003年 "器のない池"/ gallery J2(東京)
2003年 "道に迷う配達屋"/ フタバ画廊(東京)

主なグループ展
2008年 "The House展 現代アートの住み心地"/ 日本ホームズ住宅展示場(東京)
2008年 "JAPANESE CONTEMPORARY ART"/ Walk Akasaka, 企画 Nonaka(東京)
2008年 "サスティナブル・アートプロジェクト in 旧岩崎邸" / 旧岩崎邸(東京)
2007年 "ケレン-主張する色彩-" /東京芸術大学美術館 陳列館(東京)
2007年 "団・DANS×CHANEL Le Monde de Coco"/ シャネル・ネクサス・ホール(東京)
2007年 "サスティナブル・アートプロジェクト 2007"/旧坂本小学校(東京)
2005年 "The shop 現代美術の着心地"/ コージアトリエ 旧 GINA men's wear(東京)
2005年 "船橋現代美術交流展 ' 05 「物語が生まれる所」"/ 船橋市民ギャラリー(千葉)
2004年 "collaboration 2004 日本マケドニア現代アート交流展"/ BankArt(横浜)
2001年 "記憶のかさなり展"/ セゾンアートプログラム・ギャラリー(東京)
2001年 "SAP ART DELIVERY 2001"/ 芦花ホーム(東京)

受賞歴
2005年 アート・ミーツ・アーキテクチャーコンペティション2005 最優秀賞


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