2008.01.26 [土] - 2008.02.17 [日]
和田君が展示をすると聞くといつも僕はワクワクドキドキする。稚拙な言葉だけど、その言葉が一番ハマる。期待を裏切られる事への期待。

和田君の作品は、良く言えばバラエティに富み、別の言葉を使えば首尾一貫していない。ひとつの作品をなんとなく理解できたかと思ったら、次の展示では全く違う世界を追求していたりするのである。彼のそうした姿勢は、自分の制作スタイルを確立したのち、何度もそれを繰り返すことが常とされる現代の美術の世界では特異にも感じられる。

ただ、バラバラにみえる作品郡のひとつひとつを注意深く見てみると、彼が実際に体験した事はもとより、人から聞いた話や以前読んだ本からインスピレーションを覚えたであろう事柄が、作品の根底に横たわっていることが多い。そんなものがちらりと作品の要素のどこかにみつけられると、今はこんな事に興味を持っているのかとか、どっからこの作品のアイデアがやってきたのかなとか、作家の頭の中を勝手に想像してしまいそれがまた面白い。そしてまた和田君の作品は変わり続ける。名声を得たり作品が売れるためには、そんな制作スタイルは、非常にリスキーなのだろうけど、本来、表現とは、自分の心を動かすものへと近づこうとする衝動なのではなかったか。その時々の興味の対象に深くのめり込み、何度もそれを反芻し再解釈し、自分なりの方法でどっと吐き出す。そして、それがまた人の心を動かしていく。Art Center Ongoingの第一弾の紹介アーティストとして和田君を選んだのは、表現の持つそうしたダイナミズムを体現している作家だからだ。

和田君の作品はこの先も変わり続け、何処に向かうと言うのだろうか。予想が出来ない事は今の時代、実は珍しい。本物の表現とは安心して観ていられないものなのだ。

Art Center Ongoing
代表 小川希


■■■オープニングパーティ
1月26日(土) 18:00~

■■■アーティストトーク
2月2日(土) 17:00~18:00

■■■オープン記念シンポジウム
2月9日(土) 17:00~18:30
ゲスト:岡部あおみ氏(武蔵野美術大学教授)

■■■和田昌宏パフォーマンス
2月17日(日) 20:00~

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撮影:近藤伍壱

アーティスト・インタビュー
Ongoing WADA’s TASTY!!
和田昌宏

■現在進行形の展開

―― まずはじめに和田さんの、過剰と言ってもいいくらいの要素を掛け合わせて作り出す独特の作品世界の由来を教えてください。

和田 作品制作を始めた当初は、事前に「これを作る」ということを決めてそれを完璧に仕上げる、言ってみれば職人とか製作所での作業に近い感覚で作っていました。そうするともちろんイメージ通りの完全なものが出来上がるんだけれども、一方でなんだか頭を働かせる感じがあまりなくなってしまった。そういう作品というのはビジュアルがすでに説明になっているから、自分で作っていてもわかりやすいなと思うし、実際に人に見せても理解されやすい。だけどそれもあんまり面白くないなと思って。もしかしたらそれでは自分が目指しているものよりもちょっとパッケージ化され過ぎたものになっていたのかもしれない。普通に町を歩いていても、僕が気になるのは「一瞬何なのかわけがわからないもの」の強さだったりするし、美術というのはそういう方向にあるべきなのではないかと思うので、最近はその感覚を重視しながら制作をしています。それは別にカオスがすごく好きであえて過剰な感じの作品を目指しているとかいうことでは全然ないんだけれども、ベクトルが同じでもいろいろなアイデアが寄せ集まると自然にカオスになっていくでしょ。そんな「アイデアのケオティックスープ」のような作品を作りたいし、展示するからには自分としてはフルスロットルでさらけ出す、その結果が自然と過剰(トゥーマッチ)なものにつながっていけばいいなと思っています。

―― 制作スタンスにそういう変化があった中でも、『WADA’s TASTY KEBAB』(2002年~)シリーズは継続的に続けているプロジェクトですね。

和田 『KEBAB』としてやりたいことは、最初はシンプルなケバブマシーンとケバブのような木彫が回転している、「台座に置かれる彫刻」というイメージをかたちにして展示するだけのつもりだったんだけれども、それがイギリスケバブ店のネオン(『WADA's TASTY KEBAB (light box)』2004年~)→モロに路上に出て売っている日本のケバブ屋(『WADA's TASTY KEBAB On The Van』2005年~)→……というふうにイメージとかやりたいことがだんだん外側に拡大していったので、ならばケバブを使って美術を外に送り出してみようと考えるようになったんです。巷で出回っているケバブというのはもともとトルコから来た料理で、その古都イスタンブールがシルクロードの拠点になっていたということもあるので、もし今後、必要なお金と時間を手にすることができたなら、ケバブ・ヴァンに乗ってシルクロードで遥かイスタンブールを目指してみたい。ケバブが発祥地トルコからヨーロッパを廻って日本で行き着いた「ヴァン・スタイル」で、歴史的、文化的な交易路だったシルクロードを東から西へ、ラクダの代わりに軽トラに乗って日本風ケバブを逆輸出する。作品自体も日本やヨーロッパとはまた違った受け取られ方をするだろうから、それも面白いだろうなと思っています。

 僕の作品はすべてそんな感じで、どれも未完というか、現在進行形=ongoingなので(笑)、まだまだやりたいことがある。そういう感覚が要素がとしてつながって絡んでいってまた違うものに奇形的に発展していくことを自分でもとても期待しています。


■変幻自在のリスク

―― 一般的に日本では、制作活動を継続していくに連れてだんだん自分の作品スタイルを固めていくことが良しとされている傾向があるように思うのですが、そういうスタンスにはアンチなのですね。

和田 (スタイルを)固めることによってすごくクオリティの高い「美術作品」を出していけるようになるという人もいるかもしれないけれど、僕がなんで美術をやっているかと言えば、いろいろなアイデアが絡み合いながら発展をしていく過程で新しいかたちや表現が生まれてくる可能性が面白いと思うから。具体的にそれが何かはわからないけど、わからないからこそ美術をやっているんだと思う。

―― 観る側にしてみれば、「あの人のこういう作品が好き」という感覚がありますよね。観る側のそういった期待を裏切ることになるかもしれないと思うことはありませんか?

和田 たまに「この人は俺にこういう作品を期待してるんだろうな」ということが伝わってきてプレッシャーになることはあるけど、反面それを裏切ってやりたいという思いがいつもあります。発表する前から他人が想像できるようなレベルのものとして自分の作品を提示したくない。その間での葛藤というのはけっこうありますね。

―― そういうスタンスは美術業界の中ではわりとリスキーというか、評論や紹介等がしにくいという部分もあるのでは?

和田 そんなことは百も承知でやっているわけですよ(笑)。もし単純に金が儲けたいとか有名になりたいという動機だけで作るのであれば、美術じゃなくても良いわけです。もちろん作家活動だけで金を稼ぎたいという気持ちはあるけど、なぜいま自分が美術というジャンルの中で表現をやっているのかを改めて考えてみると、そこでやりたいことを曲げてまでスタイルを固める必要はないというか、まだまだ今のやり方でいけるんじゃないかと思っているので、凝り固めるのではなく中間地点でバランスを探りながら制作を続けていきたいですね。

―― 実際には、それぞれバラバラのようでいながら「WADA’s TASTY」な雰囲気がいずれの作品にもなんとなく漂っている気がします。

和田 自然にそういう感じになっていけばいいなと思って。何をやれば売れのるかということはいろいろ見ていればなんとなく察しがつくようになるけれども、そういうのにこそ反発してやりたいという気持ちが常にある。

―― 次から次へとスタイルを変えていく作家なんて、今の日本にはほとんどいませんよね。

和田 そうですね。いや、実際にはすごいたくさんいるのかもしれないけど、日本で(作家が)いる/いないと言う場合の基準がギャラリーになってしまっているので、それによって見えづらくなってしまっている部分も多々あるんじゃないかと思うけれども。

―― 今回の展示もOngoingギャラリーの初回展示になるわけですけど(笑)。

和田 でも、Ongoingの場合は金儲けとかは二の次だから僕に展示を依頼してくれたわけでしょ?

―― たしかに、「こういうのもありなんだ」という感じで観る人の意識を刺激して、美術の見方に新しい開口を作ってくれることを一番期待しています。


■不穏なヤバさを求めて……

和田 売れるという方向に対して媚びることはしたくないんですよね。

―― だけど、『Ongoing vol.03 壱万円展』(2004年)では「一万円で購入可能な作品」を展示作品とあわせて出展することが参加の条件だったんだけれども、その際に和田さんが出品していた『Mt. Dove』(2003年)を見た時には、上手いなと思ったんですよね。和田節でありながらも普通に持ち帰ることができる作品というのも可能なんだなと思って。

和田 もちろんできますよ、そういうのも(笑)。でもそこに労力を使いたくないというか、そういうことをする以前にやりたいことがもっといっぱいあるから、販売しやすい小作品というのは優先順位が低いんですよ。

―― たぶん和田作品にとっては「欲しい」というよりも「これはなんなの!?」という感覚を喚起することがより重要なんですよね。

和田 わけがわからない時におかしくなっちゃうような感情というのがあるでしょ。面白いから笑うのではなく、なにか許容範囲を超えた時に出てくるおかしみみたいな感情。作品を通じてそういう感覚を与えたいなとは思っていますけど、簡単にできることではないので、まだ狙ってできるようなレベルじゃない。でも、自分で見て「なんじゃこりゃあ!?」と思えなければ作っていても面白くないし、常に自分自身の許容範囲も超える作品を目指していきたいので、そのためにも事前に完璧な計画書があるとダメなんですよ。

―― でもそういうやり方だと、何のかたちにもならない可能性もあるし、怖くはないですか? いちおう頭の中でアイデアのシミュレーションはするのですか?

和田 もちろんいきなりは始めません(笑)。そのシミュレーションは時間をかけてものすごいやりますよ。それでも、それが作品全体の60~70%ぐらいの状態になるところから作り始める感じです。

―― 和田さんは海外にいた期間も長いし作品も日本的ではないから海外のほうが作家活動がしやすいのではないかと思うのですが、日本で活動する際にやりづらさみたいなものは感じていませんか?

和田 感じるけど……これが今、自分のいる現実だからそれを嘆いていても仕方ないし、やりづらいからといって日本に迎合しようとも思わない。ひょっとしたらどの国に行っても同じかもしれないですしね。アウトサイダーではないから作品を通じてコミュニケーションは取りたいけれども、商品のように万人に理解されて消費されるようなものは作りたくない。美術作品を理解するということは「わかるわかる」ということではなく、わからない中にある恐怖とか面白さとか、そういう感覚を発見し、共有することが重要だと思うし、僕もそこを突いていきたい。たとえばうちのじいちゃんも物作りが好きな人だったんだけど、いちおう「鳥の被害よけ」とか目的と機能性を備えてデザインをして作るのだけれども、自分のための「マイ・デザイン」だから、逆さの箒のようなモノが土に突き刺してあるだけだったり、最終的にはすごいオリジンなことになっていて、改めて見るとすげえなと思うものをたくさん作っていた。自分の欲求で作ることから始まって、自分の中だけに引きこもって表現するというわけではないのに、他人が見ると「何あれ?」みたいなことになってしまっているものとそこから生まれるコミュニケーションというのはすごく面白いと思うし、そういうヤバさってもしかしたら日本には特にたくさんあるのかもしれない。だけどその対極に「超おしゃれファッション、流行最先端の街・東京」みたいな部分もある。そんな状況の中で、消費されずカテゴライズもできないものが放つ不穏なヤバささらに追求していきたいと思っています。

(2007年12月18日、Art Center Ongoingにて収録)



和田昌宏 Masahiro Wada
作家ホームページ : http://www.masahirowada.com/


略歴 
1977年 "東京都生まれ
1999年 多摩美術大学美術学部中退
2001年 東京都昭島市の旧米軍ハウスにて「HOMEBASE」のディレクションを開始
2004年 Goldsmiths College, University of London BA Fine Art 卒業

個展 
2008年 "L.D.K."/ Art center Ongoing(東京)
Flesh」と名付けられた余命2秒の蠅は黒い乳首でひと休み" / petal fugal(東京)

主なグループ展
2007年 "感情の強盗"/ Bank Art studioNYK(横浜)
2007年 "アレぢごく" / SAKURA FACTORY(東京)
2007年 "16時間美術館" / AIT 代官山ヒルサイドテラス・スーパーデラックス(東京)
2006年 "DRAWING japamark" / HOMEBASE(東京)
2006年 "Ongoing Vol.5" / Bank Art studioNYK(横浜)
2006年 "5days JEANS FACTORY ART AWAED 2006" / 高知市文化プラザかるぽーと(高知)
2005年 "スピカフェ2"/ spica art(東京)
2005年 "群馬青年ビエンナーレ05"/ 群馬県立近代美術館(群馬)
2005年 "Ongoing Vol.4"/ Bank Art studioNYK(横浜)
2004年 "BA Fine Art 卒業制作展" / Goldsmiths College (ロンドン)
2004年 "COHIBA 拝島国際交流展示×映像祭 04'" / HOMEBASE (東京)
2004年 "Ongoing Vol.3" / QuakeCenter in 旧朝日中学校 (東京)
2003年 "At A Time When They Were Friends"/ Q Kunstakademiets Udstillingssted (コペンハーゲン)
2003年 "Lily Lee ×拝島国際映像際" / HOMEBASE (東京)

受賞歴等
2006年 JEANS FACTORY ART AWARD 2006 グランプリM賞
2005年 群馬青年ビエンナーレ 入選