2008.10.31 [金] - 2008.11.24 [月]
2階 CUE寝室 12時-21時、1階 Cafe 12時-23時
お休み:11月4日、5日、10日、11日、17日、18日
 ステッキを一振りするだけで、冬景色が一面の花畑に変わったり、朽ちて崩れ落ちそうな廃屋をお菓子でできた可愛らしいお家にしてみたり。童話やおとぎ話に出てくる魔法使いはそんな夢のようなことをいとも簡単にやってのける。本人の独特の風貌も作用してか、以前から私は、成田久さん、通称CUEちゃんに対して、そんな魔法使いのような印象を抱いている。

 魔法使いには大抵の場合、敵と味方がいたりするが、どんな空間もとびきり可愛らしく変えてしまうCUEちゃんは、やはり善玉の魔法使いであろうか。私の知る限り、制作の際、CUEちゃんはまず展示する空間を見て、その場に最も適した作品のプランをたてる。そしてCUEちゃんにかかれば、どんな場所でも一瞬でCUE色に。一瞬という言葉をあえて使ってみたが、資生堂のアートディレクターという第一線で活躍するCUEちゃんが、その仕事とは別に、膨大な量の作品を生み出し続けている現実を目の当たりすると、どこにそんな時間があるのかと驚愕し、やはり魔法を使っているかのように思えてならないのだ。仕事の合間に魔法のステッキを一振り、といった感じで。

 そんなCUEちゃんの作り出すインスタレーション空間に一歩足を踏み入れれば、性別や年齢を問わず、その世界観に誰もが抵抗する間もなく包み込まれてしまう。It’s a CUE world!! CUEちゃんの魔法にかかった者は皆、その可愛さに感嘆の声を上げるであろう。ただちょっと待って。CUE worldの可愛さに恍惚とするだけでももちろん良いのだけれど、少し近づいて、1つ1つの作品をじっくりと見てみて欲しい。ミシンを使ってびっしりと縫い込まれた数々のテキスタイル作品のディテールには、アーティストCUEちゃんの手による創作の痕跡がまじまじと確認出来るはずである。それは、一瞬の魔法なんかでは決してない、一人の人間の手が残したものなのだ。途切れることのない集中力と膨大な作業量。そこに、単なる可愛さだけでは片付けられない、ある種の狂気を感じずにはいられない。

 可愛さと狂気。お話の中の魔法は危険が伴っていることが常だが、作品の中のそんな二面性を確認すれば、やはりCUEちゃんが魔法使いに思えてくる。今回の展示ではCUEちゃんの寝室がお目見えするとのこと。「魔法使いの寝室」、何とも恐ろしい言葉の響きではあるけれど、覗いてみたい衝動をどうにも抑えられないので、今宵もCUEちゃんの魔法にかかってみようと思う。
― Do You Believe in Magic? ―

Art Center Ongoing
代表 小川希


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11月1日(土) 17:00~22:00
オープニングレセプション


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11月3日(文化の日) 19:00~20:00
対談 with イラストレーター 黒田潔
対談入場料:1000円(ワンドリンク付き、先着30名)


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11月9日(日) 19:00~20:00(アーティスト篇)
対談 with Ongoing キュレーター 小川希
対談入場料:1000円(ワンドリンク付き、先着30名)


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11月16日(日) 19:00~20:00
対談 with 福井利佐
対談入場料:1000円(ワンドリンク付き、先着30名)


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11月22日(土) 19:00~20:00(アートディレクター篇)
対談 with Ongoing キュレーター 小川希
対談入場料:1000円(ワンドリンク付き、先着30名)

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アーティスト・インタビュー
NONSTOP!! CUE☆CHAN!!!!!
成田久
聞き手=小川希


■表現/社会、アート/デザイン

―――成田さんは気鋭のアーティストでありながら、資生堂のアートディレクターとしても社会の第一線で活躍しています。ご自身では、その二つの顔を意識しながら両者を使い分けているような感覚はありますか?

成田 資生堂のことは資生堂のこと、自分のことは自分のこと。エビちゃん(蛯原友里)とか伊東美咲さんとかをモデルにするような、化粧品会社の資生堂にしかできないクリエイションの中でやれる幅というのは、個人としてやっていることとは方向が違う。だけど僕はモジモジするのがイヤだったから、きれいで美しくメジャーでできるんだったら資生堂はアリかも、と思っていたし、学生の時からやってきた僕の作品のスタイルをそれほどねじ曲げたりしない延長線上に資生堂の仕事があって、両者が共鳴する部分があったので続けてこれたという感じかな。

―――実際にアートディレクターとして成田さんぐらい充実した仕事ができていれば、普通はそれを自分の表現のすべてとしてやっていきそうな気がするのですが……。

成田 それは絶対ないかも(笑)。会社にはちょっと失礼だけど、僕はまず自分中心で考えていて、その幅の中に資生堂がある感じかな。だけどもちろん資生堂では資生堂が要求する仕事をしているわけで、資生堂の広告を自分の作品だとはあんまり思っていないかも。仕事では、資生堂の要求に対して何をしたら自分が世の中にメディアとして出せるか、会社とお客様の接点をステキに考えられるか、ということをやっている。

―――そのON/OFFを自在に操作できるというのがすごいなあと思って

成田 そこは自分ではよくわかんない(笑)。実は最近は悩んでいるところもあって、アートディレクターとしてやりきっちゃえばいいかもとも思うし、もっと自分の表現をやりきっちゃえばいいのにとも思う。そこを両立しちゃっている自分がいるけど、本当にこれが両立なのかどうかはわからない。「資生堂の成田さん」という付加価値がついたとしても、結局は自分中心だと思ってるから、会社からの要求もどんどん高くなるし時代も動くし、純粋に自分の表現を考えることのほうがハートをつかむようなことだったら、自分で考え切っちゃうほうが僕には合ってる気がすることも多いかな。

―――自分の個展のような場合には、当然すべての表現を自分でコントロールするわけですが、やっぱりそういうほうが楽しい?

成田 うん。そこはもう全然違う。だけどDMひとつ取っても、昔はカッコつけてわけわかんないDM作ってたけど、やっぱりよっぽどじゃないとわざわざお客さんが足を運ぶということはないんだから、このDMが何を意図した展覧会のインビテーションなのか、どういう意味合いがあるのかというようなことがわかったほうがいい。そういう部分はこの仕事をしていてリアルに学んだし、わけわかんないものは作らなくなったかな。僕の展示には僕を知らない人にも来て欲しいから、キャッチーで面白そうな部分とか自分の情報だったらどんどん下世話に出してもいいと思っているし、DMは足掛けとしていつもキチッとまずやりきって出します。


■ソーイングという手法

―――成田さんの作品は万人に開かれているようで、実は棘がある。ファッションとして単純に楽しむことはできないというか、簡単に触れると怪我をする狂気のような部分が潜んでいて、そこが非常に魅力的だと思うのですが。

成田 それはちょっと面白い解釈かもね。テキスタイルなんかをやっていると、仕事柄もあって「デザインして発注してるんでしょ?」と言われることが多いんだけど、「実は一人で全部やっている」と言うと、狂ってる度が高いと思われちゃう。見た目はカラフルで楽しそうなんだけど、「え? 全部一人でやってるの?」ということになると、ちょっと病気??みたいなね(笑)。実際にずっとミシンの前にいないといけない作業なんだけど……、デザイナーの自分とアーティストの自分が両方いるから、流通に乗せて表現する部分もあれば、自分で作り切らなきゃ気が済まない部分も普通にあるということなんじゃないかな。

―――たとえば「CUEちゃん縫い」とも言えるようなあのオリジナルのステッチなんかは、どんなふうに編み出したのですか?

成田 一番最初のきっかけは、舞台衣装を頼まれてパタンナーさんをつけてもらえると言われた時に、自分がその人にゆだねたら、その時点でなんかもう違うかもと思っちゃって。それで自分で作っているうちに、その頃は織物をやっていたんだけど、だんだん織ってる場合じゃなくなってきて、穴さえ空いていればかぶれるんだからもう勝手にやる!みたいなことになって、初めてミシンというものを触った。そうしたら、色としての布と糊としてのミシンみたいな、立体にしながらその場で変えていけるような部分がすごく自分にとってはやりやすかったのと、簡単でありながらどんどん手が込んでいくようなところが自分にはぴったりの表現方法のひとつだった。

―――実際に成田さんのテキスタイル作品には、作りながら変化していく絵画のような部分がありますよね。

成田 たぶんお洋服をちゃんと勉強されている方だったら身体に合うラインとかを重視するんだけれども、もちろんそれを要求されたら僕も考えるけど、あんまりそこに自分は重きを置いていなくて、もっとふにゃっとした形のカバンがあったらいいなとか、別に左右対称じゃなくてもいいんじゃない?というふうに、自分が好きなもの/持ちたいものをたまたま作品として作ってきた感じ。それを実際に欲しいという人がいたということのほうが自分にとっては驚きだったかも。もちろん僕はプロダクトデザイナーじゃないから、パーツとしてのクオリティも必要だけど、まず考えたいのは見せ方自体。だから演出が大事な部分としてあって、終始単体としてではなく、全体として見てからまた単体に入る、みたいなやり方が好きかな。自分がどういう表現になっていきたいのかという部分は毎回違うし、作品展示のイメージは空間を見て決めちゃうことが多いんだけど、今回Ongoingの空間を見た時には「おうちチック」というところがあったから、ストイックにやるよりは屋根裏部屋に来たみたいな感じでやるほうが面白いなと思った。5月にやった展示(「衣殖[いしょく]/ISHOKU」2008年5月13日―25日、ギャラリーギャラリー)はあまりにもストイックなものだったので、今回はヴィレッジヴァンガードじゃないけど、今までの展覧会の中でも一番ゴチャゴチャしたいし、「これも作品なの?」「これも?」みたいな連続の展覧会ができたらいいなと思ってる。自分でも見取り図のようなものを作っているんだけど、実際の展示がどうなるかは自分でもまだ面白くわかんない!


■変幻自在のアーティスト

―――テキスタイルの作品を始める以前は、おもにどんな制作をしていたのですか?

成田 もともとはグラフィックでペイントをしていて、ラッキーなことに二〇代前半で賞もけっこうもらった。だからその道でずっとやっていくと思っていたんだけど……、人の動きが入ってくるような感覚のほうが好きだったのかな。今でも絵はベースとなっているし他の表現と分けて考えてはいないけど、絵を描いている時の温度と縫いものをしている時の温度は違うかも。あと、絵は仕事を始める以前にかなりどっぷり没入して描いていたから、今のスタンスでは絵が描けるかどうかちょっとわからない。だけどやっぱり昔から知っている人からは、僕の絵が好きだったんだけどもう描かないの?と訊かれることがある。でも絵を描いていた頃も展示の際には端っことか変な場所に置いちゃったりしていて、空間というのはどこかでずっと意識してきたのかな。

―――成田さんにとって、ファッション/デザイン/アート/……といったジャンルの垣根はどうでもいいことですか?

成田 客観的に見ちゃっても、自分はおしゃれじゃないことをやってるとは思ってないから(笑)。ファッションがおしゃれかどうかという話はまた別だけど、見た目としてはわざとダサくはしてないかもね。僕の作品をデザインから見る人もいればアートから見る人もいればファッションから見る人もいると思うから、自分にとってそこに境界はないし、自分の表現がどこまでどっちなのかというようなところはよくわかってないかも。ただ、最期に自分は何者として死にたいかと言うと、ちゃんとアーティストとして死にたいと思ってる。

―――そういう芯の通った間口の広さがあるからこそ、根強いCUEちゃんファンがたくさんいるんですね。

成田 表現を始めた頃は、何かをやり切る人じゃないとダメ、とか思ってた。もちろん今もひとつひとつ一所懸命やっているけど、もっとその時々で変化してもいいという感じになってるかも。

―――その心境の変化はどうして?

成田 表現が止まらないから(笑)。

―――仕事をしながらよくそのバイタリティを維持できますね。

成田 むしろ仕事をしているからこそできるのかもね。「自分はこうじゃないんだ!」みたいな。だからフリーでやっている人を見るといつも羨ましく思っちゃってるし、決め切らない自分に対して葛藤もある。もっとやればもっとやれるんじゃないかとも思うけど、資生堂のクリエイションも自分の感覚があるからできていることは多いと思う。

―――日本のアーティストの多くは社会と接点を持たずに自分の表現を黙々と続けて、その中でごくたまに売れる人がいるといった感じだけれども、成田さんのようにアーティストの感覚を社会の中で活かしながらボーダレスな制作を続けているというのも、すごく独特のスタンスだと思います。

成田 そういうアーティストから見たら「コイツ資生堂に居やがってアーティスト気取りもしてやがる」って感じで、かなり半端者だと思われてると思うけど(笑)。でもたぶん僕は止まったらダメなんだろうな。

―――自分のブランドを立ち上げたりしようとは思わないですか?

成田 そんなの始めちゃったら終われないからイヤ(笑)。僕は自分の表現をどんどん特化して生きていければそれでいいと思ってる。アートディレクションの仕事も含めて、自分の振幅から作り上げたクリエイションをまとめた展覧会をいつかやるのかもしれないな。
(2008年10月7日、資生堂汐留オフィスにて収録)



成田 久 Hisashi Narita
アーティスト★資生堂アートディレクター

略歴 
1970年生まれ
1994年 JACA’94日本ビジュアルアート展銅賞
1995年 第6回グラフィックア-ト"ひとつぼ展"グランプリ
1999年 東京芸術大学大学院美術学部デザイン専攻修士課程修了
1999年 資生堂宣伝部デザイン制作室入社 
1999年 アーバーナート♯8優秀賞
2004年 京都SferaExhibitionにて
    イラストレーター黒田潔とコラボレーション"PLUS+"展

個展 
1995年 "me in the ordinary life"展
1996年 "ぴとぴとぴと"展
1997年 "Chicken soup"展
2007年 "感情の強盗"/ Bank Art studioNYK(横浜)
2001年 "Salary man"展, "closet"展
2003年 "Cinderellaco"展, "closett"展
2004年 "さく、さく"展
2005年 "さく、さく、さく"展, "そをす"展, "○"展, "closettt"展
2006年 "●"展, "I came to enjoy the Mint Tea."展
2007年 "ヘンタイ"展, "closetttt"展
2008年 "衣殖"