今年度のノーベル物理学賞を受賞した南部博士の研究は30年も前のものでありました。優れた研究を行う科学者、芸術家は新しい時代を切り開く先駆者であり、挑戦を恐れることはありません。今展の「音の風景、こころの風景」では音の主観的知覚と芸術家の主観的体験を組み合わせる意欲的な展覧会です。しかし先駆的なだけではなく同時代性も兼ね備えています。二週間の会期の前半はワークショップ。さらに夜間は、東京大学、SONYコンピューターサイエンス研究所、国際メディア研究財団、国立民族学博物館からの超一流の研究者による公開プレゼンテーション。彼らとの短期集中での共同制作からの展覧会となる会期後半の夜間はヨーロッパを拠点に国際的な活動をするアーティストの公開トークもあり、目が離せません。最終日の土日はトークセッションにより各研究者が成果発表を行い、民族学者が科学者と芸術家の民族学的研究の成果を発表いたします。新しい知が生まれる現場はもう始まっています。

 

 

【概要】
 私たち人間は「視覚」が優先される動物である。お互いの顔や体、映画や広告、公園の景色を見たり、電車からのさえない眺めにがっかりする。人間は目の前にあるものを見るとき、特定のものだけを認識し、残りは視野にありながらも無視する。これが「世界」と「世界を見ること」の違いである。そのように見て「選ぶ」さらに蓄積した感動から創る専門家が芸術家である。芸術家が描く風景画、コンピューターが自動的に撮る記録写真の風景。その違いは、風景画には芸術的なセンスと「心の風景」が含まれていることにある。
 ところが人間は視覚的であるがゆえ「音」の知覚が同様なものであることを忘れてしまう。

 目を閉じると、まるで音による風景があるかのように「音」は隠されていた多くの事象を明らかにする。
たとえば閉じられた部屋の向こう側で誰かが話しているとする。聞き耳を立てると普段は気にも止めなかったエアコンがうなっている音に気付いてしまう。さらにはその見えていない部屋がはたして静かであるのか騒がしいのか、快適なのか緊張しているのかも音で判定できる。この例からも「音」は「世界を見ること」と同じようなとらえ方をしていると見なせる。ある音にはマルセル・プルーストにおけるマドレーヌのごとく過去(失われた時間)を呼び覚ます力がある。わたしは二十年も前の踏切の錆びた鉄門の音を思い出す。そのような時に「心の風景」に近づいているのではないだろうか?
 コンピューターに代表される機械は、「音」を無視することは出来ない。人間と違って、興味や美に左右されずすべてに注意を向け記録写真のごとく記録していくからだ。それに比べ私たちの音声知覚はむしろ芸術家の描く「絵画」のようなものと言ってよい。そうすると私たちは音声知覚では芸術家(サウンドアーティスト)なのかもしれない。わたしたちが主観的に選びとって感じているサウンドスケープは、その主観的感覚を裏付ける「心の風景」を明らかにしてゆくのだろう。

 この展覧会と関連するワークショップでは「音」が記憶を呼び覚ます力を探求してゆく。過去や現在、周囲の状況音がどのように内的世界につながるのか?わたしたちは芸術的なプロセスを用いて愛情か憎悪を選び、さらに記憶するに値するものを決めているのか?さらにクールに考えれば、ヒアリング機械とヒアリング人間の違いは何か? 私たちは自己を取り巻くものの音を聴いているが、その取り巻くもの達は私たちから何を聴いているのか?日常に存在するモノ達が聴くことの出来るもの、聴いているもの、好きなもの、思い出しているものははたして何であろうか? 

 これらの課題を通して、知覚を捉え直し創造を発展させることを目指している。

 

 

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【日程進行】

第一週 11月26日(水)〜11月30日(日) 【ワークショップ。カフェスペースでトークあり】
※公開トークでは1ドリンクがチケット代わりです。

*イベント
11月28日(金)19:00〜
プレオープニング 工学博士/DJ:徳井直生
「サイエンス:iPhoneによるサウンドアート」


11月29日(土)19:00〜
オープニングイベント、トークセッション
「アート&サイエンス:われわれはいかにしてここに集まったか」


第二週 12月3日(水)〜12月7日(日) 【展覧会】
※公開トークでは1ドリンクがチケット代わりです。

*イベント
12月3日(水)19:00〜
展覧会オープニングトーク 音声学者/工学博士:JJ オートクチュリエ
「サイエンス:音と意識、科学者の視点から」

12月5日(金)19:00〜
トークセッション 芸術家:中崎透/出月秀明
「アート:ナショナルと周縁性をめぐる議論、地方で活動するアート」

12月6日(土)19:00〜 
トークセッション 芸術家:新井厚子/出月秀明
「アート:トランスナショナルをめぐる議論、アーティストとレジデンス」

12月7日(日)17:00〜
クローシングトーク 先着30名様、予約はこちらから→
科学者+芸術家+民族学者:
茂木健一郎/池上高志/鷲見淳/JJオートクチュリエ/出月秀明 他
「アート&サイエンス:クロストーク、この試みは一体?」
「芸術家と科学者の態度に対する民族学的考察」

【参加予定者】

ジャン・ジュリアン・オートクチュリエ 東京大学池上研博士研究員 http://www.jj-aucouturier.info/
出月 秀明  武蔵野美術大学日本画学科非常勤講師
徳井 直生  国際メディア研究財団研究員 http://www.naotokui.com/
鷲見 淳   国立民族学博物館在外研究員
中崎 透   武蔵野美術大学博士課程満了 美術家 遊戯室代表
新井 厚子  美術家 在スペイン(Hanger, HIAP, Sch_ppingen, A.I.R滞在)
相馬 真太郎 ミュージシャン、サウンドワークショップオーガナイザー
早川 智彦  東京大学情報理工学系研究科創造情報学専攻修士課程
ジェス・マンテル  グラフィック・プロダクトデザイナー
オリヴィエ・マルティネス  映像作家
フィリップ・パスキエール  シモン・フラザー大学教授(カナダ)
キャシー・コックス  玉川大学メディア・アーツ学科講師
池上 高志  東京大学大学院総合文化研究科準教授
茂木 健一郎 脳科学者/SONYコンピューターサイエンス研究所上級研究員